短篇
□鬼と花―梢―
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「病院へ向かいなさい。あの女、死にかけとはいえ、人質ぐらいにはなるでしょう。」
爆煙の立ち込める港から走り去る一台の車。
撃たれた足を引きずりながら、それでも追う一人の男。
「待ち・・やがれ・・!」
刀から手は離さない。
次第に遠ざかっていく車を睨む目は虚ろだった。
しかし足を止めはしない。
(今の奴が向かう場所はあそこしかねぇ・・早くしねぇと・・!)
だが、思いとは裏腹に体は力を失っていく。
ドサッ・・
「ガハッ・・。」
とうとう両足が動かなくなり、地面に倒れ伏した。
「くそっ・・たれ・・。」
叩きつける様な雨が瀕死の体から体温をも奪っていく。
薄れゆく意識の中で自分を呼ぶ声が聞こえる。
飛び散る赤と黒煙しか映らなかった目の、その瞼の裏に見えたのは
“皆の・・十四郎さんのそばに・・”
遠い日の、あの日のような美しい満月だった。
(ミツ・・バ・・。)
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