捧・頂

□沖天(ちゅうてん)
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●.. 沖天(ちゅうてん)





「副長、もう足の怪我は治ったんですか?」

「ああ、迷惑かけたな」


1ヶ月ぶりに松葉杖を置いて手ぶらで歩いた。

隊士たちはそんな俺を見て安堵の表情を浮かべる。

着流しに隠れる傷痕を残した右足、歩を進める度にまだピリピリとした痛みが僅かに走るが、大したことはない。


「おートシ。今日は非番なのにやけに早ェじゃねーか」

「まぁな。出掛けて来る」

「大丈夫か、足」

「大丈夫だよ」





「十四郎さん、」

「何だよ」

「包帯、もう血が滲んでいるわ」

「これくらい大丈夫だよ」


後ろからする声に耳を傾けながら、手ぬぐいをしぼる。

俺は昨日、顔も知らない奴にいきなり襲われ、悔しいことに頭に怪我を負わされてしまった。

その後、相手の持っていた木刀を奪い殺さないほどに打ちのめしてやったが、眩暈がして俺もその場から歩いて去るのがやっとだった。

後に聞いた話によると、昔自分が打ち負かした奴だったらしい。

負けたことを尋常ではないほど根に持っていたらしく、かなり殺気立っていたことを覚えている。


「汗もかいているし、巻き直したほうがいいわ」

「後でやるから」

「一人じゃ上手く出来ないでしょう。私がやりますよ」


稽古あとの大量の汗が、先ほどから傷口にしみてズキズキと痛み出していた。

稽古を見学がてら総悟を迎えに来たミツバが、裏の井戸で身体を拭いていた俺をじっと待っている。


「‥わかったから、向こういってろ」

「はい、待っていますからね」

「うん」


しっしと手でミツバを追い払うと、桶に汲んだ冷水をすくい顔を洗った。

長い髪が垂れて少し、水に浸り水滴を滴らす。


「はぁー‥」


ふるふると顔をふり水しぶきを飛ばした後、身体中の毒素を排出するような大きなため息が出た。


「あ」


頭を揺らしたせいなのか、突然髪を結っていた紐がぶちっと音を立てて切れてしまう。

だらしなく解けた長い髪をそのままに、俺はまたため息を吐きながら着物を着直すと道場に戻った。






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