ショート

□温
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場所は変わり、病室。
ベッドに腰掛けるカカロットくんと、パイプ椅子に座る私。
微妙な空気に耐えきれず、とりあえず謝罪から。

「すみませんでした」
「仕方ねえし、気にすんな」


風に飛ばされた写真を追っかけようとしたが、カカロットくんはそうさせてくれなかった。
抱きしめられて、嬉しいのと、恥ずかしいのと。
私は相当テンパった。だってさ、後ろから抱きしめて「捕まえた」なんてセリフ、人生で一度聞けるか聞けないかのシチュエーションですよ!
なのに、どうしていいかわからずジャンプして顎に頭突きとか……女としてどうなの。





「…………そこに居んのはわかってる、入ってこい」


ひとつため息を吐いて、だるそうに吐き捨てるとドアが開いた。
ぞろぞろ入ってくる同じ顔。
揃うと、迫力ありますね。


「みなさんお揃いで。オレも愛されてんだな」
「アホ。そろそろ起きてもらわねえと入院代がバカにならねえ。お前らだけ茶碗一杯の生活になっちまう」
「い゛ぃー?!オラそんなんじゃ腹ぺこのままだぞ」
「“お前ら”って、オヤジはおかわりすんのかよ?!」
「だれのおかげで食えてると思ってんだ」
「なぁナマエ、やっぱこんな不良やめてオレにしない?」
「おいターレス、汚ぇ手でナマエに触んな!」
「汚い?それはお互い様だろ?」
「んだと……つか、なに普通に馴染んでんだ」
「救急車を呼んだのはオレ。止血したのもオレ。命の恩人なんだぜ」
「頼んでねえ」
「ターレスが居なかったら、命が危なかったんだぞカカロット」
「じゃあナマエは何してたんだよ」
「えっと……それは聞かないでください……」


会話は途切れることなく進んだが、急に振られて息詰まった。よりによってその話し……勘弁してくれ。


「それよりっ、カカロットくんをこんな目に遭わせた犯人、見つかったんですよ!今は謹慎処分ですが、カカロットくんの意見も尊重されるみたいです」




早く逸らそうと思って出したのがこれ。
ちょっと、いや完全に場違いだった。何してんだろ私。




「一応お前らだけで話せ。オレ達はまとまり次第参加する」
「病院なんだから、喧嘩すんなよな」



そう言って、お父様とラディッツさんは病室を出ていき、残された私たちは、息苦しい空気の中ただ俯いていた。


そして最初に口を開いた悟空くんから、話は始まる。


「オラさ、だれが悪いってのは決められねえけど、ナマエに嫌な思いをさせちまったのは事実だ」
「たまたま今回がでかい話になっただけで、しかも被害者がカカロットになってしまった。オレの言いたい事はわかるよなナマエ」


全部吐き出せ。
優しいターレスさんの目からそう伝わり、言うことはないと思っていた話を、全て彼らに話した。


「小さな、ほんの小さな嫌がらせを受けていました。私がカカロットくんと付き合って、別れた所を狙われたんだと思う」
「じゃあ、やっぱり階段から落ちたのも……」
「背中を押されて…それから、ブラウスも破り捨てられちゃって、別にそれはよかったの。ただ、私の友人にも被害が及びそうになり、怖くなった」
「オレはそのタイミングを見計らっていた。ナマエと接触するためには、まず悟空からって。けどそれが予想を上回り、ナマエを混乱させちまったんだ」
「唯一助けてくれるだろうと思っていた悟空くんを失ってしまった。ならばカカロットくんに賭けてみようと。図々しいけど“助けて”の一言を伝えようと……でも、カカロットくんは既に。やっぱり私は、暇つぶしだった」
「頼りを全て失ったナマエは、敢えてオレを選んだ。それも予定通りに。だが計算外がひとつ、何故カカロットがあの時来たかだ」
「……悟空の様子が変だった。だからチチから聞いたんだよ」
「……チチ、ちゃんに?」
「『ナマエが仕掛け人』とか言うからよ、頭に血が上っちまってさ」
「じゃあ、チチちゃんと屋上に居たのは、事情を吐かせるため?」
「屋上って、なんで知ってんだ?」
「…早とちりだった」

「んで最後な。カカロットに殴られながらも追いかけたナマエ。その後、本来殴られるはずのナマエを庇い、カカロットが殴られた」

「波乱の1日でしたね」




1日の流れはざっとそんな感じ。

色々と手分けして犯人探しをした結果、狂気はカカロットへの恨み。というのがわかった。

女子からは単なる嫉妬。
男子からは彼女をカカロットくんに奪われた。等々…。



つまり結論を言うと、


「オレがナマエを好きだから、ナマエを傷つけちまったのか」



全て、ではないが、カカロットくんに非があったと言うことだ。


「オレが言えることじゃないけどよ、全部自分に返ってきたって事だな」




ターレスさんの言葉にそんな事ない、とは言い切れず、困ってカカロットくんを見れば無理に笑っていた。


「ナマエを好きなのは本当だ。あの日からずっと、好きだった。形はどうであれ付き合ったしよ、ナマエに愛されなくてもオレはすげー楽しかった。って、そんな自分勝手だから、ナマエを酷い目に遭わせたんだよな。ごめん」
「なに弱々しい事言ってんの、らしくない」
「お前な、死にかけたんだぞ!」
「でも、カカロットくんが守ってくれたじゃん」
「だからあれは体が勝手に…」
「はいはい。お互い苦労する体で大変ですよね。じゃああれだ、指切りしよう」
「急に何言い出すんだよ」
「お互いやらねばいけないことがたくさんあります。それを綺麗さっぱり片付ける。そうだな、進級するまで関わらないって事でどう?」
「耐えられんのか?」
「そっちこそ」





私との無理やりな約束は、小指同士が結ばれて誓われた。
けれどもそれを、みんなは暖かく見守ってくれたのだ。





(少しの間、この温もりとはサヨナラ)

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