モノクロ

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「あんたさー、ちょっと仁王君に相手してもらってるからって調子に乗らないでくれる?」


レッド君と待ち合わせしているというのに、嫌なタイミングで呼び出された。

相手は5人。
全員仁王雅治のファンらしい。


「私、調子に乗ってるつもりないんですよね。でも無自覚だったら謝ります。すみませんでした」


「だっ…だったら…もう仁王君に近づかないでよ」


「分かりました。以後気をつけます」



正直相手にする必要はないし、第一敵に回してしまったら厄介。
でもって、怖いのだ。
そんな彼女等に立ち向かえるほど私は強くないんだからさ。


てっきり反撃するとでも思っていたのだろう。だからあまりにもあっさりと答えた私を見て、動揺している。
だけどそんな彼女等に付き合っている暇は無いのだ。私は早く待っているであろうレッド君の所へ早く行かなくてはならないのだから。

「では失礼します」


軽い挨拶をし、彼女達に背を向けた瞬間、急に頭が真っ白になって、体も軽くなった。



「……って、私がそう簡単に雅治を諦めると思ってるの?」
「安藤さん……あなたって人は!!」
「中1の時から目を付けてたし、一番雅治の事を知ってるのはこの私」
「その言い方……まさか、仁王君の弱みを握ってて……」
「……まぁ、握ってると言えば握ってるわね」
「なによそれ、最低じゃない!!」
「でも安心して。私と雅治は好き合っているの。だから何の問題も無いでしょ。あんた等は精々無駄に足掻いてればいいのよ」



そこでハッと我に返った。

目の前では叩くために手を振る1人の女。

私は何も出来ずただぎゅっと目を瞑った。






そして、パチンと高い音が校舎裏に響き渡る。


でも不思議な事に痛みは感じない。

恐る恐る目を開くと、どうやら一週間ぶりに見るワカメ頭のレッド君が私を庇ってくれたらしい。


「あっ……赤也君…なんで…」

私を庇った事か、それともレッド君を叩いてしまった事にか、女は怯えだす。


「やめてもらえませんかね、百合に手を出すの。それから、気安く名前で呼ばないで下さい」

あの無邪気で明るいレッド君だとは思えない、低く冷たい声に女たちは顔を青ざめ、最後に私を睨み付け彼女達は逃げていった。

残された私たち2人。
最悪の再会となってしまった。

「…えっと…ごめんなさい…私が約束しておいて、待ち合わせに遅れちゃって。
それと、庇ってくれて、ありがとう」


未だ私に背を向けるレッド君に、謝罪とお礼を言うが、もしかしたら怒られる。
そう思い、びくびくしながら彼の返事を待つと


「百合ー!!」

「えっ、ちょっと!!」


勢い良く振り向き、私に抱き付くレッド君。


予想外の反応でもあるが、微妙に範囲内にも入っていた。


「一週間ぶりッスー!!」


今までに経験した事のない力で抱き締められ、スポーツをする男子ってこんなにも力が強いんだなと思ってしまう。


「もー限界!もし今日百合に逢えなかったら俺死んでました!!」
「大袈裟だよ…」
「そんな事ないッス!だって現に、百合が仁王先輩の事……」
「銀髪君がどうしたの?」
「俺は百合を堕とします!だから百合は余計な事をしなくていいッスからね!!」
「………話の展開が今一分かりません」


なんか切なそうに私を強く抱き締めるから、この後のリアクションに困る。
いったい何なんだこの子?
喜んだり、悲しんだり。忙しい子だね。





でもとりあえず、手を伸ばしレッド君の頭をぽんぽんと叩く。
あまり身長差のない私たちだけど、やっぱりレッド君は年下なんだなと思った。


「叩かれて…痛かったよね…」
「平気ッスよ。真田副部長と比べものになりませんから。
それより早く行きましょうよ!百合とのデートは一分一秒も無駄には出来ないッス!!」



行き先も知らないくせに、私の手を取り走り出す。
でも今だけはいいかなと少し甘えて、レッド君の手を握り返した。









(一週間ぶりに見たレッド君の笑顔は眩しかった)

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