モノクロ

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「最初からやればいいのに」
「じゃあ来年の夏は、最初から百合が見てくださいよ」
「来年って、レッド君受験生じゃん」


無事に威圧感が半端無いあの部室を脱出し、今は2人でアイスを食べながら歩いている。それに、レッド君だって色々頑張ったんだもん。だから奢ってあげようとしたんだよ。(別に、今日が31%オフだからって訳じゃないんだからね!)
なのにレッド君、私の優しさを無視して「別にいいッスよ!」って言ったんだよばかやろー。素直に言うこと聞けばいいのに。


「なんスか?」
「……いや、美味しそうに食べるんだなーと」

睨むつもりで視線を送ったのに、一口食べる毎に「美味しい」と言っては幸せそうな顔をする彼に見とれた。その度にドキッと来るのは私の心が弱いだけだよ。

「確かに美味しいッスけど、何より百合と一緒に居られるのが幸せッスから」

えー、彼って悪魔なんじゃなかったっけ?
私の目の前に居るのは見るだけで幸せになる微笑みをした天使なんですけど。一体彼は何なんだ!?


「レッド君ってほんと純粋だよね。だから私を好きになるのやめた方がいいと思う」
「えー!何でんな事言うんスか!?」
「私は汚れてるからさ。だからレッド君を汚したくない」
「そんなの俺の知ったこっちゃねえ。俺は百合が汚れてるとか知りませんし。でも、その汚れが少しでも薄くなるのなら俺を汚したって構いませんよ」

真っ直ぐな目をした赤也君は、本当に私の事を想ってくれてるのかなと思ってしまう。でもそれは素直に嬉しいよ。それに、私もレッド君の事が……好き、なんだよ。本人に言うことは出来ないけど、多分そう。
色んな初めての気持ちを、私はレッド君に教えてもらった。


だからこそだよ。私は赤也君を、好きな人を失うのが怖い。


「じゃあレッド君に質問です。私とレッド君、どちらかが死ぬことになりました。貴方なら、どちらの死を選びますか?」


こんな選択肢、生涯にあるか分からないけど私にとっては真面目な質問。でもレッド君だからこそ、彼の答えを訊きたかったんだ。


「っで、どうなのよ?」


レッド君を見てみれば、視線を落として黙り込んでいる。ずっと動いていた手も止まっていて、溶けたアイスすら気にしていない。私が一口、もう一口とアイスを食べていれば、答えがまとまったのか「そうッスね…」と言い、レッド君は話し出した。




「百合の死を選ぶッス」


予想外の発言に言葉を失った。自分で言うのもあれだが、きっとレッド君なら犠牲になろうとするのに……。でもその言葉にはちゃんとした理由があるらしく、私は興味を持ちながらレッド君の話しに耳を傾ける。


「だって、俺が居ない世界で百合は生きていけますか?って言うとなんか自意識過剰ッスけど……すみません。やっぱり俺が死にます。俺が居なくても、百合は生きていけますもんね」


これが俺の答えです。とへらっとした顔を見せたが、なんだか悲しくなった。私の死を選んだからじゃない。理由も、分かる




【赤也君の居ない世界では、生きていけない】



飛鳥が死んでから、私は何度も問い掛けた事があったのを思い出し赤也君の言葉を重ね合わせる。


【どうして私を残して逝ったの?】


でも返事は返ってこなく、前を向いて誓ったの

【飛鳥の分まで生きるから】


そしたら空が笑った気がして、今の私になったんだ。

そうか、そうだよね。私、ひとりが嫌なのと、大切な人を失いたくないだけなんだよ。



【飛鳥はもう居ないけど、赤也君はここに居る】

彼の手を握り気持ちを伝える。真っ直ぐな目を向けて人に話したのは久々だ。


「赤也君、私、ひとりでふらっと消える癖があるの!だからさ、どんな事をしてもいい!私を捕まえて!!今の私には、赤也君が必要だから…」


勢いが余ったから言い過ぎてしまい、はっと気づいた時には手遅れだった。さらに、顔を赤くした赤也君の反応が純粋過ぎるしさ、精神的ダメージ大きいわ。


「それって…百合…」
「じゃっ、じゃあ2学期に!!」


こんな形だけど……
こっ、告白…だよね?
でもレッド君の受け取り次第だし、て言うかレッド君から逃げてきちゃったし……。

これ程飛鳥の所へ行きたいと思ったのは初めてだわ。









(アナタを愛していいですか?)

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