短編集B

□無自覚の酬
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「神さ〜んっ!!」


廊下の奥から聞こえた大きな声に振り返ると、オレに懐いている可愛い後輩の姿が見えた。
まるでご主人様を見つけた忠犬みたいに、キラキラ目を輝かせてこっちに向かってくる。
もし尻尾が生えてたなら、ちぎれそうな勢いで振ってるだろう。


「どうしたの、ノブ。」

「一緒に部活行こうと思って!オレ、神さんにシュート教えてほしーっス!」

「いいけど。でもそれでわざわざ2年生の教室に?部活行ってからでも良かったのに。」

「そーなんスけどー。何か早く神さんに会いたくて!」


まったく、この後輩は。
無自覚でこんな可愛い事言ってくれるんだから、敵わないな。
ノブが皆に好かれてる理由がよく分かる。
煩くて、態度がデカくて、お調子者で。
それなのに監督や牧さんや高砂さん達に可愛がられてるワケが。



「そっか、じゃあ今準備するから。一緒に行こう。」

「やった!あざーっス!」



心の底から嬉しそうな笑顔をみて、自然とオレの手はノブの頭に伸びた。
ノブのサラサラな髪を梳いてポンポンしてやると、気持ち良さそうな顔をして目を閉じる。


「ふふ、ノブ犬みたい。」

「神さんになら、飼われてもいーっスよ!かっかっかっ!」



オレはこんな大きなペット、ごめんだよって言ったら、“ちぇー!”って唇を尖らせてほっぺを膨らます。
そんな姿がまた可愛くて。
だからオレはノブをからかうのがやめられない。
表情がコロコロ変わって面白い。



「なんだよ、神。オマエそーとー慕われてんな。」


オレとノブのやり取りを後ろで見ていたクラスの友達が、笑いながら声をかけてきた。
オレは苦笑しながら、眉を下げて見せる。



「当たり前っス!だって神さんはオレの憧れの先輩っスから!」

「だってよ、神。良かったな。」

「はは、そりゃどーも。」

「神さんはカッコ良くて、バスケが上手くて、頭も良くて、優しくて、オレに無いもの全部持ってるんスから!」

「ノブ、それは言い過ぎだって。」

「何か、アレだな。愛の告白みてーだな。」


ノブがあまりにオレを褒めるから、友達は冗談まじりに冷やかした。
もちろんオレは冗談だって事は分かってるけど、素直なノブにはこの冗談は通じなかったみたいだ。


「な、なっ!何言ってるんスか!オレが神さんに!?こ、告白って!オレら、男同士っスよ!?」


顔を真っ赤にして慌てふためくノブを見て、オレは笑が込み上げてきた。
ノブにバレない様に、くっくっと喉の奥だけで声を出さずに笑う。
冗談も本気にして慌てるこの後輩が、どうしようもなく可愛い。



「別にいいんじゃない?男同士でも。オレはノブの事、好きだよ?」


もちろん、後輩として。
って意味だけど、面白いからそこは敢えて心の中だけで留めておく。



「なっ!?何言ってるんスか神さん!オレはそんな、そっちの趣味は!!」

「ノブはオレの事、嫌いなの?」



少し声のトーンを落としてみる。
するとノブの顔がみるみる青ざめていくから、面白い。


「い、いや!あのですね、もちろん神さんの事は好きですし、尊敬してます!嫌いなんて、ぜってーそんな事ねーっスから!」

「そ、なら良かった。」

「あははっ!やっぱオマエらお似合いだな!」



たまりかねた友達が、ヒーヒー言いながら笑っている。
“もーダメ、死ぬ!”って、そこまで笑われるとは思わなかったけど。



「じ、神さぁん!!」


ノブはノブで泣きそうになりながらオレにしがみついてくる。
ちょっと、からかい過ぎたかな。
でも、ノブが悪いんだよ。
無自覚にあんな発言するから。
良く言うでしょ?可愛い子ほど、苛めたくなるんだよ。


「冗談だよ、ノブ。さ、早く部活に行こう。」

「神さん!」


笑いながらノブの頭を撫でてやると、途端にまたあのキラキラした笑顔を見せる。
そんなとこが、また可愛い。

なんの疑いもなくオレに懐いてくるノブには悪いけど、やっぱりオレはノブをからかうのがやめられない。

こんなに可愛くて面白いヤツは、そう居ないからね。


だから、またオレの名前を呼んでよ。
その明るくて、大きな声で。









END.









ちょっとBLちっくな要素が入ってしまったかも。苦手な方、すみません。
神と清田の組み合わせが好きです。とにかく清田が可愛くて可愛くて仕方がない!そんな清田をからかって遊ぶ神さん。この二人は私の中で最強コンビですね。
神さんと一緒に居る時の清田は犬にしか見えない。飼い主に懐いた忠犬ですね。この二人のお話は機会があったらまた書きたいです。
2014.3.5

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