Book/Trance
□恋文などは如何でしょう
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形態握り締めて正座して一時間。そろそろ足が痺れてきた。
カチカチとボタンを打っては試行錯誤し、削除、削除。
ああ、なんて書けば良いの。分からない。
そんなことをしているうちに、11月6日まであと5分。どうしようどうしよう。
絶賛片思い中の彼、長谷川正さんの誕生日までタイムリミットは、5。
好きな人の誕生日、って、特別。それがライバルの多い人なら尚更。こういうチャンスのときにアピールしておきたい、いや寧ろ、告白したいんです。
でもそれは、思ったより難しいことで。
告白、して、気まずくなったらどうしよう。とか。
こうしている間にも誰かが告白したらどうしよう。とか。
一大決心は幾度、幾度も揺らいで。
で、私は一時間もこうして悩んでいると。はぁ、溜息。
たんじょうびおめでとうただしさん。うまれてきてくれてありがとう。すきです。
伝えたいことはたったそれだけ、なのに。
またカチカチと文章入力、確認。
ああもう全然駄目!削除削除削除!きーっ!
誕生日おめでとうございます、の文字のあとに、好きです、って打っては消し打っては消し。
あ、まじ、どうしよう。勇気ないよ、うう。
今まで通りは嫌だけどフラれるのも怖い。
気が付いたらディスプレイに映る時刻は既に23:59。
しまった、12時丁度にメール届くようにしたかったのに!
取り敢えずメール送信、数秒後に表示される"送信完了"の文字。
よ、よかった。送れた。間に合った。
この際もう告白なんてしなくたって、正さんの誕生日に間に合いさえすれば、それで、…。
あれ。
はたと気付き、送信メール、確認。
私がたった今正さんに送ったメールには生誕を祝う文字はなく。
愛の告白、のみ。
「…送っちゃった、……」
"好きです"。送ってしまった。告白しちゃった正さんに。
これで、良かったの…かな、…?
今更込み上げてくる羞恥心。緊張がはらりと、解ける。
…う、わ、どうしよう。どうしよう!いやほんと。やっぱ恥ずかしい、こんなに恥ずかしいと思わなかった、よ。
止めれば良かったかな。忘れて下さい正さん、…。
…いや、やっぱり忘れないで。取り消さないで。開き直ってやるから。好き好き好き、大好き!大好きなんです正さん!
やけくそになった私の心は妙に晴れやか。
時計の針は0:00。只今の日付、めでたくも11月16日。
ひとしきり騒いだ私は一人きりで歌を唄いました。
来年は、ねえ、貴方と一緒に祝えますか。
「Happy Birthday to you…」
(数分後、返ってきた返事を見て私が泣いたのは嬉しさからか悲しさからか。)