Book/Trance

そして僕らはそれまでの関係
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「ジングルベールジングルベール鈴がー鳴るーっ!」

「…姉さん良い年して恥ずかしくないの?」



















子供っぽい。それが姉さんを言い表すに一番相応しい言葉だろう。
僕の姉は、こういうイベント事にとても弱い。多分女の性なのだろう。
それは僕も良く分かってる。

今現在も、リビングを折り紙で出来た鎖で一生懸命飾り立てている姉さんはとても楽しそうだ。テーブルの上には可愛いらしい苺の乗ったケーキ。姉さんの手作りだとかそうでないとか。

既にテーブルと向き合っている僕は飾り付けの終了待ち。ああ、お腹空いたー。
終わったらケーキ切って、なんて言いながら、椅子に立ってふらふらしながら壁に鎖を張り付けている。

…スカート短っ。中見えるし。



「…そういえばさあ、ね、しんぢ。」

「んー?」

「家族でクリスマス過ごすのって久し振りじゃない?」

「……ああ、うん。」



今までのクリスマスだと、両親は仕事、姉さんと僕はそれぞれの恋人と共に過ごしていた。だけど今年は違う。両親はやっぱり居ないけれど、家の中には姉さんと僕が居る。何故だか。
い、や。不自然なんだろうか。



(…ていうかマジで見え……あ、白)


















と、テーブルに置いた携帯電話から聞き慣れたメロディが響いた。
俺のだ。姉さんがちらりと見遣るが、俺は無視。



「……」

「…しんぢー、携帯鳴ってる。」

「出たくない。」

「……ふーん?」



取り敢えず開くけれど電話に出ることはなく、マナーモードにする。鬱陶しい。
飾り付けを終えた姉さんは椅子から降りると僕の向かいの席に着いた。僕はナイフを持ち、白いケーキに刃を入れる。



「ねえー、あんたなんで家に居るの?」

「………」



今更。ですか。
大分前から此処に居る、というか、貴女がバイトから帰って来たときから居た筈だ。三時間余りノータッチだからそこはスルーなのかな、と思っていたんだけど。

家に居るのが不思議なのは、わざわざクリスマスにバイトなんて入れた姉さんも同じだと思う。

切り分けた三角のケーキを皿に取り手渡すと、フォークを構えていた姉さんは即座にがっつき始めた。
おうおう。太るぞ太るぞ!



「…さてはしんぢ…、友利ちゃんと別れた?」

「……」

「図星か!」

「…姉さん、今河とかいう彼氏は?」

「……知るか。」

「………」

「……未練は?」

「あるわけないじゃん。あんな女」

「あんたじゃなくて友利ちゃんの方」



クリスマスに別れ話、なんて、彼女相当落ち込んでるんじゃないの?と、姉さんは要らぬお節介を焼いて来た。自分もだろ。
その問いには黙って携帯電話の画面を見せる。着信15件。メール32件。全部友利からだ。



「…友利ちゃんは不満なんだ。可哀相ー」

「は、何で?だってあいつ鬱陶しいんだ、」



クリスマスは予定開けといてね、なんて、甘く甲高い声で囁いて来る。喘いで腰振るしか脳がない馬鹿な女。
家族と過ごしたい、と言ったら不満げな顔をする。面倒臭いったらありゃしない。

所詮、姉さんへの想いの代替品に過ぎない、のに。
だから別れてやった。



「姉さんはなんで別れたのさ」

「んー?内緒。」

「……」

「ねえ、クリスマスプレゼント何欲しい?」

「…姉さんが欲しい。」



その為にわざわざ別れたんだ、と微笑んだ。姉さんは少しだけ驚いたように目を見開いた。
がたん。テーブル越しに、キス。唇は生クリームの甘い味がした。

舌を入れて掻き回して、隙間から熱い息が漏れたらようやく手放す。蕩けた目つきの姉さんが抵抗する気配は、ない。



「……抵抗、しないの?」

「する理由が特にない。それに私は男に困っている」

「俺も女に困ってる」

「じゃあ、需要と供給は一致したわけね」



椅子を立ち姉さんの元へ向かった。ソファに身体を倒し、首元に顔を埋める。
あ、やばい、止まらない。これはマジな雰囲気だ。止めるタイミングが分からない。

どこまでが本気なんだ、我が姉よ。

姉弟なんて関係ない、と惚けたことをぬかす姉さんはやっぱり子供だ。そんな姉さんに恋した俺も馬鹿なんだろう、な。
需要と供給。それでも構わない。いつの間にこんなに遊び人になったのか。
俺が言えない、そんなこと。

精々、両親が帰って来るまでの数時間、姉弟仲良くじゃれ合おうじゃないか。










































子供な振りして、大人

(本当は母さんたち、)(今夜は帰って来ないんだ。)(プレゼント、ゆっくり味わわせてよ)




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