小説

□ハッピーバレンタイン!
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放課後。
デスクに着いて、仕事を片づけている最中だった。






ドサドサッ
……………ゴンッ。






頭の上から大量の何かが降ってきた。


「?!!!」


少し遅れて頭に直撃したひとつを手に取る。


なんだこりゃあ?


「黒りーん♪も食べる?」

「ああ?」


振り向くと、ヘラヘラ笑ったヤツがいた。
相変わらず気配を消して近づくのが趣味らしい。


「チョコレートだってー」


ファイは俺の周りに散らばるものをかき集めた。


「いやあ。廊下歩いてたらたくさんもらっちゃってさ―。女の子は好きだよねー。こういうの」


む。


「受け取ったんだな」

「うん」


俺は目の前にいる男をまじまじと見た。


柔らかい物腰に、長身、華奢な体躯。
顔も…まあ、悪くない。

こいつがモテるのも、わかる。




わかるが………




「俺というものがありながら、そんなんもらってんじゃねぇよ






―――って思ってる?黒様」


「思ってねぇよ!!!馬鹿かてめぇ!!!」


しかも今のは俺のものまねか?!
似てねぇんだよゴラ!!!


「まあまあ、そんなに怒らないで―?それにさ、」


いつの間に開けたのか。
地面には無残にも破かれた包装紙。


唇にチョコが押し当てられた。


「君が全部食べればいいんじゃないかな」

「………ぅぐっ!」


無理やりこじ開けられて、押し入ってくるチョコレートに息が詰まった。
甘ったるい味が口の中に広がる。


「その表情そそるねー。ほら、まだこんなにあるよ?」


黒様なら食べきれるよね―。


そう言って、冷たく見下ろしてくるファイに鳥肌が立つ。

俺が顔を僅かに引きつらせると、背後から腕を回してまるで抱きつくような体勢をとった。


誰かこいつを止めてくれ!!!


「やめろこら!!!」

「んじゃ黒んぴの本音が聞きたいな」


ファイがチョコを持つ手を下げて、微笑んだ。


なんだよその交換条件は。


あんな大量の甘い食いもんなんか食べる気ねぇぞ俺は。

だからと言って、本音なんて言いたくねぇし。


「………」

「妬けた?」


くそっ。


「…………………少し、な」


俺がそう言うと、椅子を回して向き合わされた。
両手で顔を持ち上げられる。



金糸のような髪が頬にかかって、キスをされた。
ほんの少し触れて、すぐに離れる。


「俺には、君だけだよ。だから安心して?」

「―――っ」


もう一度降ってきたとろけるような甘いキスに軽い眩暈がした。




やっぱりこいつにチョコをやるのは止そう。
調子に乗って、何をされるかわからない。




キスを受けながら、引き出しにしまってあるチョコのことを思った。




***end




でもこのあと、何だかんだで見つかっちゃって赤面する黒様とか…かわいいなぁ。




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