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□4m
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生徒たちの声が響く教室。


そんな中新は一枚の白紙の紙とにらめっこをしていた。



そこには入部届と大きく書かれた文字。





「やっぱり、陸上部かな…。」






ため息混じりに”陸”という文字を書き始めるが、消しゴムを取り消去。



かれこれ同じことを繰り返して10分が経過していた。




「新ちゃん!」




「うわっ!!」





どこからともなく突然出没するのはいつものこと。

だが、思いのほか心臓に悪い。


大きな目を細めて少年を睨む。



「おお、怖い。」などとおちゃらけている。






「何か用?」




「別に用ってないけど。新ちゃんの悩む姿も可愛いなーってさ。」





「……。」




「部活悩んでる?」





「……まあ、そんなところ。
絞ってはいるんだけどなかなか…、悩むね。」






「候補はー?」




「陸上部と水泳部。」




「うわ、真逆だね。」




「うん、走るの得意だし元々陸上やってたからその延長でやろうかと思ってるんだけど…。
水泳部もいいかなって。」




「どうして?」





「泳げないから…。泳げるようになりたいし…。
それに…。」





「何?宗介がいるからー?」





「うん、まあ…。それもある…。ってなんで私、君にそんなこと言ってるんだろ…。」




「いいじゃん、相談してくれて嬉しいよー?」




「あのね…。」





「あ、そうそう!ちなみに俺は陸上部ね!」





「え?」





頭で手を組んで微笑む翼に思わず疑いの目を向ける。






「俺、地元じゃ結構有名らしいんだよ。
大会とかでも何度か優勝しててさ。リレーメンバーにも選ばれてんだ。」





「え?あ、うしおつばさ…、え!?あ、君だったの!?」




コントのようにポンと手を叩いた。

そういえば大会パンフレットで何度か名前を見たことがある。




こんな軽いやつとは知らなかったが。







「……。」





「人は見掛けに拠らないとか思ってる?」


「思ってる。」



「うん、そんな顔してるよー。
僕も新ちゃんのこと見かけたことがあるよ。
すっごく綺麗な走りをする子だなーって思ってたんだ。」





「どうも、ありがとう。」




「去年の冬の男女混合リレー。実は俺もメンバーに選抜されてたんだよね。」





彼の言葉に顔をしかめた。


去年の冬の大会は新は選抜もされていなければ、個人種目もエントリーしていない。





何故なら、あの夏の出来事があったからだ。






「俺さ、密かに楽しみにしてたんだよ。君のチームと勝負ができるの。
でもね、それよりもやりたいこと見つけたんだ。」






「やりたいこと?」





「君と一緒にリレーやりたい。
だから僕こっちの中学来たんだよね。」






「え?」




いつもと違い、そこには照れた表情の翼がいる。





「俺、君と勝負できなかったとき悔しさや悲しさとは違ったなにかの感情があったんだよ。
なんていうか、傍で一緒に走りたいって思ったんだ。
だから、君がこの中学に来るって知って俺もここに入った。」





「ストーカーじゃん。」




「一途って言ってくれよー!!」




「はいはい。」




「とにかく!だから、真剣なんだよ!
俺が新ちゃんを好きって気持ち…。」






顔を赤らめて告げる彼の表情は真剣そのものだ。



だから、ちゃんと答えなくてはならないと思った。





「…ありがとう。
でも、その気持ちには答えられない。」





ゆっくりと告示する言語に、翼は眉をひそめ始める。






「私ね…、大切な人がいるの。」





「手紙の人?」





尋ねられてびっくりする。


こう見えて彼はよく見ているのか、と。





「うん、そう。」




「やっぱりね、新ちゃんがその手紙を見てる時の表情、とっても輝いてるから。」






「うん、遠いけどね、お互い頑張ろうって励まし合ってる。」





「もしかして、その人も水泳やってるの?」




「うん、そう。
だから一緒に泳ぎたいっていうのもあるんだぁ。」







「そっか、でも、それぐらいで諦めたりしないから!
新ちゃんのことも、陸上部のことも、ね!!」





「はいはいー。」





「ああ、ほんとなんだよー!!」





くすくすと笑う新。



少し嫌悪感が取れた気がした。




ただのノリがいい少年じゃないと分かったからだ。




凛とも宗介とも違う、


彼の優しさが伝わった。





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