Free!3

□1m
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大好きな空、
輝く空、



そんな空が黒くなってきても、飛ぶことをやめない。





何故なら、空が好きだから。





いつか天空を翔ける翼を持てると信じているから。









「次は鯨津高校1年、蒼井新さんです。」






ピッピッピー。



ホイッスルの音を体で感じ風を味方に付ける。



深呼吸を一つすると胸の高鳴りは少し落ち着く。



目を開き自分が飛ぶべき高さのバーに集中。





行く!



心の掛け声とともに駆け出し、ここだ!という部位にポウルを土に埋め込ませた。



グッと力を入れたかと思うと瞬時に力を抜き風に抗わず天空を仰ぐ。





しかし、キラキラ輝いていた空は見えない。


黒く澱んだその塊が見える。




怖くない、怖くない。




そう言い聞かせるように目を瞑り地に着く瞬間を待つ。





バーを超えた感覚が分かればあとは背中から落ちるのみ。



ボンっと綺麗な音とともに着地した。




じんわりとかいた汗を拭う。
すると場内アナウンスと歓声が聞こえた。




「ただいまの記録、4m10cm。
大会新記録です。」




一層観客の声が大きくなる。



部内の先輩たちの応援にも応えるように笑顔で手を振った。





グラウンドから控え室に戻る途中、応援に駆けつけてくれていた幼馴染が顔を出した。





「お疲れさん。大会新だって?」




「ありがとう、宗介がいてくれたからだよ。
だから怖くなかった。」




「そうか、よかった。」




「うん、ありがとう。」





拳を突き出し先を合わせる。



新は彼と同じ東京の鯨津高校に進学していた。




唯一自分の好きなものを貫くために。



手紙の来ない彼との約束を守り続けるために飛び続けていた。









「あと100mだろ?」




「うん…、自信ないんだ…。」



「調子が悪いのか?」




「うーん、本調子じゃないのはいつもなんだけど…。
横のレーンの人の気迫が凄くて…。」




「知り合いか?」




「前に記録会で会ったことがあるんだけど、すごかったんだよ…。
敵意丸出し…、っていうか…。」





「んなもん、噛み付きゃいいだろ?」




「宗介と一緒にしないでよお…。
あ、いけない…。翼に記録用紙持ってもらってるんだった!行ってくる!」





前から来た男子生徒とぶつかりそうになりながらも駆け出していく新。




「ったく、危なっかしいやつだな。」とため息を交えるのだった。







「相変わらずお熱いですね?」





宗介の後ろから顔を覗かせる人物。

グレーの毛髪にピンとした直毛、淡々と話すその口調に宗介は「そんなんじゃねえのは知ってんだろ、恵。」と睨みを効かせた。





翼も恵もそれぞれ陸上と水泳を続けていた、
同じ部活で同じクラスになったこともあり、今では4人でどこかへ出掛けるまでの仲になっていた。

そして腐れ縁というやつで、高校も同じように進学していた。



最も翼に関しては、新を追いかけはるばるやってきたのだ。

勉強がスットコだった彼がこの高校に来れたのは奇跡に近いと担任が涙するほどだった。







「僕にはわからないですね。山崎がどうして指をくわえて待っていられるのか。
そんなに松岡って人を裏切れないんですか?」





「凛は俺にとって大事なライバルで親友で理解者だ。」




「連絡がなくても?」




「変わりねえ…。それは新にとっても同じなんだよ…。
俺じゃなくて、凛を見てる。だから嫌になりそうになりながらもこうやって陸上続けてんだ。」





「山崎が必要なのに?」




「…俺は凛とは違う役割だ。
支えっていうのか…?お守役だ…、一生な…。」






「それでいられんですか?」




「逆だ…。
そうしないと、あいつじゃなくて俺が潰れる。
依存してんのは俺だ…。
正直こっち(鯨津)に来るって聞いたとき心底嬉しかったんだ…。
お守役だとわかっていても、凛よりあいつと傍にいれる距離が嬉しいんだ。
心の距離は遠くてもな…。ただ顔を見て傍にいれるっていう嬉しさだ。」





「君たちの関係はよくわかないですね。」





「俺もよくわかんねえ…。
よくわかんねえから藩士して整理させてんだ。ま、お前にしかこういうこと話せねえからな。
信頼してんだよろしく頼む。」




「勝手に信頼されても困りますけどね?」



「そう言っていつも聞いてくれてんだろ?
お前は弟の相談も乗ってるから板挟みでしんどいだろうがな。」





「別に僕は苦にはなってないです。
……ただ翼は、まあ今回は結構頑張ってると思ってますよ。本気なんだなって。
あいつなりに考えてやってますからね、応援はしてます。
でも山崎の邪魔もするつもりはない。
僕も山崎を信頼していますからね。
どっちの味方でもいたいんですよ。」




「見守っててくれよ。」




「まあ、見届けてあげますよ。」





次の競技で呼ばれる新の名前に、再び宗介と恵はグラウンドを見守るのだった。




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