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□5m
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休暇2日目。


初日と同じような時刻に目が覚める。




むくりと体を起こし、リビングへ。





「あら、おはよう。」




「おはよう。」





今日は母親は仕事がないらしい。

テキパキと朝食を用意し目の前に出してくれる。

お礼を述べ、両手を合わせた。






「よっぽど疲れたのね?
夕食中ずっと目が白目むいてたわよ?」




「うん、あんまり食べた記憶ない…。
部活よりはしんどくなかったけど…、いろいろ疲れた…。」





「そう、あまり懇を詰めないように!」






母はピシっと人差し指を突き出し眉を吊り上げたのち、にっこりと笑顔を見せた。





「ご馳走様。」と両手を合わせ茶碗を片付けると、再び自室へ。




離れて痛感する母の優しさと有り難さ。

優しさや想いは勿論、家事をやってもらえる誰かが居るのはかなり大きい。




これで調子が右肩上がりならば幸せな帰省になっていただろうに。






閉ざされたままのカーテンは日差しが差し込んでも開くことはない。






お気に入りだった風景も今ではお気に入りではなくなってしまった。




今日は髪を結う気分になれない。



長く緑褐色の髪をそのままにし、着替えを始める。



走る気分でも、跳ぶ気分でもない。
いわゆる完全オフ。
そんな時、新は決まってスカートをはく。



フリルの白いワンピース。
襟元にカーディガンを巻き、帽子を被り準備を整えた。






「行ってきます。」と声をかけ外を出る。





すると、むせ返るような暑さだった。

帽子が影の役割を果たしているとは言え、数分歩くだけで汗が流れ出る。




「暑い…。」



思わず独り言。

汗を拭いながらどこか涼めるところはないか、と考えてみるが見当がつかない。




公園?

そう思ってみるが、この町の公園は海が見える。


あまり水は見たくない。





そこでもう少し考えてみると、隣町の公園は確か涼めるところもあり海は見えない。




「よし。」




気合を入れ、駅に向かう。


そして、駅を乗り継ぎホームに降り立った。





駅には見慣れない制服を着たクラブ帰りの生徒たちがたくさんいる。



どうやら学年の見分け方はネクタイの色のようだ。





学生たちの間を抜け、目的地を目指した。





何人か同じ制服の人たちとすれ違う。


みんな楽しそうに会話している、特に女子は恋バナに鼻を咲かせてるのがすれ違いざまに聞こえてきた。





駅から離れると人が一気に少なくなる。

少し急な階段を登り終えると、その場所に到着した。




「誰もいない。」




ホッと安堵し、影になったベンチに腰掛ける。


程よい風が髪を揺らし、少し気分が落ち着いた。





昨日の後輩たちの企画活動でキラキラした子供たちの瞳を見て、新はいたたまれなくなった。

前向きではい自分が誰かに伝えたところで何も伝わらない。

それどころか、自分は何も向いていないのだ。



そう痛感せざる得なかった。






後ろの方、男性のような会話が聞こえたが気にせずに、空に手を伸ばす。



晴天なはずなのに、太陽は見えない。
光さえ見えない。




「どこへ行ったんだろう…。」



真っ黒になった上天に一人呟く。



その瞬間、視界を遮るほどの風が吹き抜けた。

慌てて手を頭に乗せたが、とき既に遅し。




真っ白な帽子は、宙に舞って飛んでいってしまった。






「今日は走らないって決めたのに…!
待ってよお!!!」




新は帽子の後を追うのだった。




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