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□6m
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※ハイスピード映画ネタバレ有















「こんな暑い日に登校日なんてついてないな…。」







大きな体を揺らし、そんな体つきに似合わずに背中を縮まる。


そして、大きなため息。




「もう…、ハルはズル休みだし…。
こんな日に限って日直だし…、ホントついてない…。」





緑色のネクタイを左右に揺らしながら、下校する男子生徒。


制服は顔に似合わずシャツを外に出しラフスタイルだ。





帰り道、いつものようにいつもの場所を何事もなく過ぎようとしていた。




しかし、



「あれ?」




視界に目に入ったのは公園のベンチで空に向かって手をかざしている女の子。




その姿がある少女と重なった。



ハッと目を見開き、一瞬足を止める。





背中に翼が生えたその姿。





しかし、首を左右に振り我に返る。




「まさかね…。
ああ、思い出すなんて俺疲れてるよー。」





ガシガシと頭を掻き、再び足を動かし始めた。


すると、後ろから声が聞こえる。




「待って!!!ねえ!!!
帽子が!!」




先ほどの女の子がこちらに向かって走ってきていた。


長い髪を靡かせ綺麗なフォームで走ってきている。


その姿を見た瞬間、疑いが確信に変わった。





フワリと飛んできた帽子をキャッチし、「前言撤回。今日はついてるかも。」と。







「ご、ごめんなさい…!!
ありがとう。」




あまり息を切らさずにお礼を述べる彼女。





「いえ、どうぞ。」




笑顔で渡したそれを華奢な指先で受け取るのだった。





「私、走りは自信があるんだけど…、こういう悪戯な風には敵わなくて。」





「風は容赦ないもんね。」


クスクスと見せるその笑顔、仕草、同じ色、彼は心が躍った。




まさか、本当に出会えるなんて思ってもみなかった、と。



しかし、その表情は少し以前と違っていた。





「ごめんね、足を止めちゃって。
ありがとう。」




お礼を述べて立ち去ろうとする彼女の腕を咄嗟にとってしまった。




「え?」


驚いたように自分を見つめている。




「うわあ…、ご、ごめん…!!!」




直ぐに手を離し1歩後退。
しかし、呼吸を整え空気を呑む。




そして

「新ちゃん…だよね?」


と問いかける。




すると、さらに驚いたように彼女は目を見開いた。





「えっと…。」



覚えていないといったような返答だ。

無理もないだろう。

想い続けているのは自分だけなのだから。





「あー、えっと…。
同じ髪の色だから…。」






どこかで聞いたフレーズ。


新は必死に記憶を辿る。






「えっと…、
お祭りで、金魚くれたよね?」




「あ、ああああ!!!」







記憶が繋がった。



垂れた眉毛と目、緑の瞳。


間違いない。




「え、うっそ…。ああ、泣き虫シャチくん!!」





「ええ!?何その名前!?」




「だって名前教えてくれてなかったんだもん…!」




「あ、そっか…、ええっと…。」





「知ってるよ?橘…、真琴くんでしょ?」





「あ、うん!!
何で知ってるの?!」





「ある大会でね君のこと見かけたの。
その時にパンフレットで名前見たの。」






「覚えてて…、くれたんだ…。」





「覚えてるよー。
君から貰ったぬいぐるみたち大事にしてるよ?
一緒に寝てるの。」




笑顔の新にドキンと心臓が跳ねる。

そして、覚えてて貰えたということが彼にとってとても嬉しいことだった。




初めて会った時から、目を奪われたその姿。


そして、一度水の恐怖を克服してくれたのも彼女のおかげだった。





「ありがとう。嬉しいよ。」




真琴は嬉しさのあまりフフフと声が漏れる。






「全然、わかんなかった。
なんいていうかすごく大きくなってたし、泣いてないし…。」






「俺だって毎日泣いてるわけじゃないよ。
それに、今は泣かない。」






「そっか、よかった。」




「俺は、直ぐに新ちゃんってわかったよ?」




「え?変わってないってこと?」




「ううん、すっごく可愛くなってる。」




「お世辞でも嬉しい。ありがとう。」





「お世辞じゃないよ、本当だよ?
俺には新ちゃんが天使に見えるから、直ぐにわかったんだ。」




「天使なんてそんな…、大げさだよ…。」




「本当だよ!?
新ちゃんの背中に翼が見えるんだよ。」





彼の言葉に目を見開く。

それは先輩と全く同じ言葉だった。


嬉しいような困ったような表情を見せると、誠は何かを感じ取ったようだ。





「何かあったの?」




「え…、うーん。」




「俺でよければ相談のるよ?
いつも聞いてもらってばかりだったから。」


目を細めて作る笑顔。
それはとても綺麗で整っていた。

おまけに優しい声。



ジッと見つめると笑顔を保ったままこっちを見てくれている。



その表情に安堵し、彼の言葉に甘えることにした。






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