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□9m
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デート…。


そう言えばそうなるのだろうか?

男女が二人で行動するとういう表現になるのだるか?






「橘真琴くん…。」





新の中で彼のイメージは、やはり泣き虫少年である。


友達と喧嘩して泣いていたあの第一印象が強い。



優しい面影や笑顔は変わらないが、あの頃と比べると大分たくましくなっている。

体格はいい方だと認識していたが、今もなかなかの高身長でガタイがいい。

自分と頭4個分は確実に違っているだろう。




なにより一番の変化は相談される側から、する側になっているこ。



それに、印象とは違い少し積極的なようにも感じる。







「意外だよね…。」




彼から貰ったぬいぐるみを見つめながら洋服に手を通す。





夜に着たメールでは、”行き先は内緒”とのことだったが…。





選んだ服は白いタイトスカートにストライプのTシャツ。
その上に緑のカーディガンを羽織る。

歩くかも知れないという考慮もして、スニーカーでいけるファッションをチョイスした。




バッグを持ち玄関で待っているとチャイムが響く。


出迎えると、やはり笑顔の真琴がいた。





「おはよう。」




「おはよう。あ…。」



目に入ったのは彼の服装。


上半身が被っている。





「わ、私…、着替えてくるよ…!」



「俺はこのままの方がいいよ。」




「で、でも…。」




「デートって感じがするし、それに新ちゃんよく似合ってるから。」





「ううぅ…。」




「あら、出かけるの?」




「うん。」



「初めまして、橘真琴といいます。よろしくお願いします。帰りはちゃんと送り届けますので。」




「あら、新の母です。
それじゃあ、よろしくお願いします。」




フフフと笑っている母親を見ると絶対勘違いをしているだろうと思ってしまう。



なにより、この目立つ偶然のペアルック。



笑顔で送り出してくれた母親に帰ってからどうやって誤解を解くべきかを考えるのだった。





電車に乗り、少し遠出。



連れてきてもらった場所は



「ぺ、ペンギン…!!」



「可愛いよね?」







水族館。



幼少期より水が苦手だった新はこういうところへ遊びに来たことがなかった。


今でも水が苦手な分入るのをためらった。
しかし、彼はそれを理解しているかのように、動物と触れ合えるところから回ろうと提案してくれたのだ。




そのお陰で目の前にいる、ヨチヨチと歩く飛べない鳥に目を輝かすことができていた。




「あっちににもいるよ!
おっきい!!」



「あんまりはしゃぐと転ぶよ?」



「大丈夫!私こう見えて運動は得意なの!」




駆けて行く後ろ姿に、真琴はクスクスと笑うのだ。








「な、何!?」




「嬉しいな、こうやって新ちゃんと歩いているの。」




「真琴くん、時々恥ずかしいことサラリと言っちゃうよね…。」




「そうかな?でも俺本当のことしか言わないよ?」





「そうだとしても、そんなこと言われた、女の子なら皆勘違いしちゃうよ。」




「大丈夫、こういうことは新ちゃんにしか言わないから。」





「はーいはいー。」



「ああ、信じてないなー!?」




「だって真琴くん優しいから。
ほら、行こう!」




再び走り出す彼女を見て、眉をひそめるのだった。








ヒトデやウニや珍しいタコやカニ。

よく海で見かける生物にも関わらず触れ合ってみると改めて実感するものがある。



ひとしきり回り終えると、残ったのは360度海水で囲まれた水槽部分のみ。




「………。」




「無理しなくていいよ。」



「…真琴くんが傍にいるから…、大丈夫…。」




「無理してない?」



「うん…。大丈夫だと思う…。」




「うん、じゃあ今回はやめておこうか。」



にっこりと微笑む彼の言葉に耳を疑う。




「俺は新ちゃんに無理をして欲しくない…。
何度か一緒に来て全部回れるようになれたら嬉しいんだ。今日は少しでも楽しんでもらえることが一番だからね。」




「ありがとう…。」




「それに今日のメインはコレじゃないんだ。」





悪戯に微笑む真琴。


彼の気遣い、優しさ、表情、笑顔。



きっと、普通の女子ならイチコロに落ちるだろう。




だが新が彼と重ねるのは違う人物。





おもむろに手を引かれ、次にやってきたのは競技スタジアムだった。





「デートって言うには少し雰囲気が違うけど…、見て欲しいものがあって。」



眉を潜めながら笑顔を作る真琴。


観客席に到着すると、棒高跳びが一番見える位置になっていた。






「………。」




「今日は俺の同級生が試合だって教えてくれたんだ。
俺、陸上あまり知らないから知るにはいい機会かなって。」




「そっか…。」



「俺は、新ちゃんが飛んでる姿を見たい…。
飛べなかったら俺が君の翼になりたいんだ。
俺が支えるよ。」






「…ありがとう。真琴くんは優しいね…。」





「そうじゃないんだ…。
俺、新ちゃんが好きだから。」





「それって…?」




「女の子として、だよ。
信じてもらえないと思うけど俺、ずっと新ちゃんのことが好きで…。
昨日会えた時は本当に嬉しかったんだ。」





「なんで…、私…なの?」





「俺が泳ぐのが怖くなって、新ちゃんが助けてくれたって言ったのは、この間話したよね?」




「うん…。」




「それもやっぱり俺にとって新ちゃんを特別だなって感じたんだ。
それに…、金魚…。」





「金魚?」




「あの夏の屋台で漁師のおじいさんが取ってくれた金魚…。
全部で5匹いたんだけど…、ちゃんと世話してたのに4匹亡くなったんだ…。でも1匹だけ生き残った。
君が取ってくれた1匹だよ。」





「……。」




「水は生きていて怖い、命をさらっていく。
そう思うと怖かったけど…、その金魚が生きてくれたんだ。
だから俺にとって君じゃなきゃいけないんだ。」






「でも…、私…。」




「彼氏がいるんだろ?」




「う…うん…。」




「凛?」




「………!?
うん…。」



「だよね、だと思ってた。
今日も時々誰を思い出している素振りだったから。」




「ご、ごめん…。」



「…凛と空を飛べなくなったこと関係ある?」





「………。」




「図星かな?
それなら俺を凛の代わりだと思ってくれていいから俺の傍にいて?」




「そんなこと出来ないよ…!
真琴くんと凛は違うもん!!
真琴くんには真琴くんの良さがあるから…。
だから…!!」





「ストーップ!」



長く細い人差し指が唇に押し当てられる。




「俺は”はい”って返事しか聞かないつもりだから。」



「でも…!」




「じゃあ、俺が勝手に新ちゃんの傍にいる…。
それじゃあダメ?」




「……真琴くんに悪いよ…。」




「俺がそうしたいんだから、そうさせてよ、ね?」




寂しそうな笑顔。

この空気に飲まれてしまえばどれだけ楽なのだろう。

このまま彼と付き合ってしまえば…、自分は幸せになれるだろう、なんて黒い感情が渦巻いてしまう。



しかし、やはり凛が好きだ。





人間はなんて汚いのだろう。

人間はなんて脆いのだろう。




真琴の言葉には返事を返すことができなかった。





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