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□10m
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最近、橘がすこぶる機嫌がいい。


俺が気づくぐらいだから、七瀬はきっと「浮かれすぎだ。」と思っているに違いない。



そして、その機嫌がいい理由も俺は察しが付いている。



だから、七瀬もきっと気づいているんだろう。



そして、俺はというと、あの日からやたらと感謝されるようになった。






「あ、望月くん!」




「よう、橘!それに七瀬も!」




「……。」




「はるも”おはよう。”だって。」




相変わらずこの二人はテレパシーのようなもので繋がっているらしい。






「橘、あのコとどうなんだよ?」



「あ、えっと…!!」




橘の脇腹を小突きながらわざと聞いてみる。
すると、七瀬には何も言っていなかったのか目を泳ぎはじめた。




「何だ、真琴。俺に言えないことか?」



「いや、そうじゃないんだけど…!」




「七瀬だって気づいてるよな?」


「最近、真琴が始終にやけてることか?」




「へっ!?
俺そんな顔してた!?」







気づいてなかったのか…。


七瀬を見ると俺と同じように呆れた顔をしている。





「あ…うぅ…。」




体を縮めて涙目になっている姿は体格からは予想がつかないほど小心者だ。





「観念しろよ。」



「観念しろ。」




「ううぅ…、わかったよ…。
どこから言えばいいのかな…。」





「全部だ。」



「七瀬に分かるように最初から説明してやれよ。」




「え…、うん…。
えっと…、前に少しハルに話したことがったと思うんだけど…、前にハルと少し喧嘩したことがあったとき相談乗ってくれた女の子で…。」




「ああ、金魚の子か。」




「う、うん…!
その子と偶然この間再会したんだ。それで、連絡先を交換して、少しデートに行ってきたんだ。
まあ、デートって言ってもそんなデートスポットってところに行ってなくて…。
その子、落ち込んでたから少し元気づけようかなって思って…。
その子、陸上してて、望月くんが陸上部だから色々情報をもらったんだ。」




頬をポリポリと掻きながら述べる橘の話を七瀬は黙って聞いている。


橘なら七瀬が何を考えているのかわかるのかもしれないが、俺には無反応に見えた。






「あんな情報でよかったのか?」




「うん、良かったんだ。
彼女やっぱり棒高跳び見てる時が一番目を輝かせてたから。」




「へえ、その子もボールターなのか。」




「うん、だから望月くんに聞いたんだ。
俺も勉強になると思って。」





「で、真琴がお熱になってるその子の名前は?」




「お熱ってハル…。」




「名前。」




「あ…、蒼井新ちゃんっていうんだ。」





にっこりと微笑む橘の言葉に俺は目を見開いた。





「蒼井新だって!?
間違いないのか!?」





「え…?
うん、そうだよ?」




「知り合いか?」




「知り合いもなにもボールターやってて知らない奴なんかいない…。
彼女、高校の女子部門で最高記録の持ち主だぞ?!」





俺はカバンの中から大会記録表を慌てて取り出し、彼女の名前が印刷された部分を開く。




そして、人差し指で名前を指し、横に並ぶ記録と高校名をなぞった。





「鮫柄か?」




「えっと…、うん、そう。
確か寮生活って…。」





「本物だ…。」




「そんなに凄い子なの?」




「俺は実際見たことないけど、蒼井の飛ぶところを見た奴は全員口を揃えていうよ。
天使だって…。
だから、エンジェルボールターって言われてんだ。」





「エンジェルボールター…。」





まさか橘の恋してるのが、まさに天使とは…。




やってられねえ…。

俺は大きくため息をついた。






「で、うまくいってんの?」




「うん、まあ毎日連絡も取れてるし、今が一番幸せかなって。」




「まあ、顔見てればわかるよな…。」




聞くんじゃなかったと、のろけたその顔を見て思う。






「ま、頑張れよ…。
告白するんだろ?」




「うん、したけど…。」




「はあ!?したのかよ!
でも彼氏がいるって…、お前言ってただろ!!」




「うん、だから返事は聞いてないんだ。
俺、”はい”って返事しか聞かないからって伝えてあるし。」






前言撤回。


小心者なんかじゃない、間違いなく強心臓の持ち主だ。




横を見れば眉をぴくぴく動かせている七瀬。



流石の俺にも、お前の気持ちが分かるぞ。

間違いなく俺と同じことを思ってるってことがな。





俺も七瀬もこの強者のノロケを数時間聞くこととなった。





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