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□12m
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誰かが記録を伸ばす時、その影で誰かが肩を落としているものがいる。



調子が良かったものが、突然スランプに陥る事がある。



それはスポーツの世界で勝ち負けという結果に表れるのだ。





だがしかし、それはスランプという言葉にまとめられるほどの簡単なものではなかった。








「新、記録はまずまずだ。
調子落とさずにそのままやれよ。」





「はい!」





「よし、今日の練習はここまでだ。」




部長の掛け声とと共に部活が終了した。






「新ちゃん、おつかれー。」




「お疲れ、翼。」




「今日のご飯何にするー?」




「うーん、どうしよう。
宗介も食べるかなー?」




「ああー、最近顔見てないしねー。」




「付き合い悪いのよ。」




「彼女でも出来たんじゃないー?」




「可愛い子なのかなー。」





アハハなどと言いながら、チラリと翼に視線を向ける。


柄にもなく翼の冗談に乗ってみた。



しかし、話を合わせるのも辛くなってきた。





翼も恵も、宗介のことを隠している。



自分だけ蚊帳の外のような気がしてならなかった。




「翼、ありがとね。」




「な…、なにー?急にー。」





「翼だけじゃない、恵も…。
私に気を遣ってくれてるんだね。」




「な、何言ってるんだよー…!」




「もういいよ、そういう翼見てるの辛いからさ…。」





「!?」




翼は言葉を失った。





いつもは陽気で軽く見える。
恵と違い器用で、適度な必要の嘘もつくこともある。



そんな翼が初めて目を泳がせたのだ。





パクパクと口を動かし必死で言葉を探しているように見えた。
しかし、それも出来なかったようで息を吐き出し、眉を潜め一言。




「新ちゃんには適わないなー。」と。






「理由は宗介本人から聞こうと思ってるの。」



「うん、それがいい。
今日は行く?」



「そうしようかな。」





「ん、じゃあ兄貴には言っておくとするよ。
うまくやってよねー。」





「ありがとう、やってみる。」




下校途中、新は翼と恵と分かれ、寮へ足を運んだ。





「すみません。」




看守に声をかけると「おお、新ちゃん。」と迎えられ宗介が帰ってきてることを伝えられる。



お礼を述べ、彼の部屋へと向かった。







トントントン、




ノックの後数秒後「はい。」と返事の後ガチャリと扉が開いた。




開いた扉から一瞬眉を潜めた宗介を見逃さなかった。




「…んだよ、今日は飯食いに行かないぞ?」





「わかってるよ、話がしたいだけ。」





「…なんも話すことなんかないぞ…。」




「私がしたいんだよ。」




「…上がれよ。」






乱暴に開けられたドアを丁寧に閉める。



ぶっきらぼうに背中を見せてふて寝する彼を眺めながら、腰を落とした。







「部活は?」




「休みだ…。」




「そっか…。
最近付き合い悪いから、翼と一緒に”宗介彼女できたんじゃないのー”って言ってたんだけど、できたの?」




「んなわけ無いだろ。」




「そう?宗介モテるから、ちゃっかりつくってたりしてー…っ。」





場を和まそうと二ヒヒと笑顔を作った瞬間だった。


新の視界が反転した。


何がなんだかわからない。


今起こったことを整理すると、寝転んでいた宗介が起き上がり、一瞬で新の肩を掴み押し倒したのだ。





息は荒く、怒りに満ちた表情。





「本気で思ってんのか!?
俺が女作ってお前らと一緒にいないって本気で思ってんのか!!!!!?」




「…………違うよ…。」




「だったら二度と口にすんじゃねえ…!!!」






「わかった…、ごめん。
じゃあ、部活休んでるわけ…、教えてくれるよね…?」






「………。」




「肩壊してる?」





「!?」






1秒もない時間だっただろう。
しかし、今時が止まったように静寂が包み込んだ。


目を見開き、疑うような目を宗介が向けてくる。






「翼も、恵も何も言ってないよ。」




「………。」





「この間ね、宗介が空港まで迎えに来てくれたとき利き腕じゃない方で荷物を持ってくれたから、違和感があったの…。
”それだけで”って顔してるけど、何年一緒にいると思ってるの?」






優しく微笑みかけるとその視線をずらすように目を瞑り舌打ちをした。



倒されたままの体制を変えることなく、新は宗介に腕を伸ばす。



そして右肩に手を置くと優しく撫でてやった。




「無理なトレーニングしてたんでしょ?」




「あいつに比べたら無理なんか…。」





「宗介と凛は違うじゃない…。
身体が悲鳴をあげたってことは、それは宗介の身体にとってオーバーワークなんだよ。」




肩に伸ばしていた手を今度は頬に移す。



するとその手を掴み床へと押し付けた。






「んなこと、軽率にやるんじゃねえ!!」



「なんで?」




「わかってんだろ!?
ずっと俺のこと見てきたんだろ!?
じゃあ、何でそんなところだけ勘が悪いんだよ!!!!」





「そうす…け…。」





グッと引き寄せられ、唇が触れるか触れないかの距離だ。






「男の部屋に入るってことは、こういうこと期待してんだろ?」




低く甘い声が耳に響く。



「違うよ…!何で…、宗介…、……。」





「もう、どうにでもなれ…。」





その言葉を最後に、新の唇は塞がれた。





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