海賊の誘い

□君の姿
1ページ/3ページ



ある晴れた午後。


船尾にはベンが座って本を読んでいた。

普段から人影がない船尾は、時間帯的に船員達のフリータイムと重なっているのか静かであった。

聞こえるのは心地良い波の音。
読書をするのにこの騒がしい船の中では最適な環境だ。


静かに文字に目を通していると、鮮やかな赤髪の男が俯きながらベンのほうに近づいてくる。


名高い赤髪海賊団の船長、シャンクスだ


「お頭、どうした?」

視線は本に向けたまま問うが、彼からの応答がないため不審に思い顔を上げる。

「お頭?」

「………」

見れば、いつものはっちゃけた明るい雰囲気ではなく、幾分も暗い面持ちのシャンクス。

いったい何なんだと首を傾げるベン。

「何か言ってもらわないと、分からねぇんだが…?」


ベンが言っても、シャンクスはただ無言を貫き通してベンに近づいてくる。

そして、やっと口を開いた言葉が…

「横、座るぞ」

ぶっきらぼうい言われた言葉に、ベンは本当に何なんだと疑問符を浮かべる。

どっかりと隙間なく、密着してベンの横に座ったシャンクスは、寄りかかるようにしてベンの肩の位置に頭を乗せる。


「どうした?今日はやけに甘えただな」

「そういう気分なんだ…」


再び、本に目をやるベンは横にいる存在に気を配りながら読んでいく。


暫くするとシャンクスは、いきなりベンの腕に自分の右腕を絡ませ抱きついてきた。

流石のベンもこれには吃驚した。
器用に肩眉を上げ、腕に絡まる人物を見る。


腕に寄り添うように抱きつく彼は

それはまるで、甘え足りない猫のようで…

ぎゅっとベンの腕にしがみつく。



ベンははぁ…っとため息を零し、バタンと本を閉じていつもと違う彼を見た。


お頭っと再び呼ぼうとしたが、シャンクスの辛く悲しそうな悲痛な声が一足先に発せられた。


「何処にも…行くな…」

「…お頭…」

「俺を置いて、何処かに逝くんじゃねぇよ…」


今にも泣だしそうな声色。

ベンの腕を更に強く抱きしめた。


自分から、もう二度と離さないようにきつく。


絡められた腕は

まるで切り離せない鎖のように
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ