ルークinヴェスペリア

□頼りたいのは…
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帝都ザーフィアス。


帝都というだけあってとても綺麗で大きな町であるが、同時に貧富の差がもっとも激しい町でもある。


特に城に近く、贅沢な暮らしを当たり前としている貴族街と、町の最下層で生きていく事も精一杯なここ、下町では正に雲泥の差である。


時に貴族から不毛な罵りや暴力を受ける事もあるが、それでも下町の住民はお互いを支え合い、まるで下町皆が家族のように親しみを持って暮らしている。


そんな下町の宿屋に、下宿人である青年は一昨日の夜、新たな来訪者を連れ帰っていた。


「……。」


「……。」


黒衣の服を纏い、漆黒の長い髪の青年は、椅子を逆に跨り、背もたれに腕を置いて頬杖をつき、アメジストの瞳で朱毛の少年をじっと見ていた。


青年に見られている朱毛の子供は、床に横たわって目を閉じている蒼と白の毛並を持つ犬の顔を、しゃがみこんでじっと見つめていた。


そして見られている犬、ラピードはまるで少年を無視するかのように瞼を閉じ、子供とは反対の方向へと顔を向けている。


誰も言葉を発する事なく続けられている行為は、とてつもなく異様な光景であるといえよう。


「…なぁ、見てて楽しいか?待ってても動かねぇぞそいつ?」


長い沈黙に耐え兼ねたのか、はたまた眺めるのに飽きたのか、漆黒の青年…ユーリは朱毛の少年へと声を掛けた。


「――!?」


突然声を掛けられた少年は驚いたのか、肩をビクリと震わせた後、ユーリへと振り返る。


まるで戸惑うように視線をさ迷わせていたが、やがて遠慮がちに翡翠の瞳を此方に向けると、ゆっくりと頷いた。


一昨日の夜、突然外を歩いていたユーリの前…というよりは上から出現した朱毛の少年。


状況が把握出来ないまま、意識がない子供をとりあえず連れ帰ってはみたものの、目を覚ました子供は戸惑いながら『何も覚えてない』と言った。


唯一覚えていたのは『ルーク』という名前のみ。


「ふーん。ま、楽しいなら別にいいけどな。俺は夕飯の買い出しに行くけど、お前どうする?」


ユーリは跨がっていた椅子から降り、首を少し傾げながらルークへと尋ねた。


「…ここで留守番してる。」


ルークは再び視線をさ迷わせ、眠っているラピードが視界に入るとポツリと呟く。


「わかった。帰ったら美味い飯作ってやっから、大人しく待ってろよ?」


「うん。」
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