ルークinヴェスペリア
□始まりの鐘がなる時
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どんっっっっっ!!!!
「うぉ!?」
突然、胸元辺りにきた衝撃にバランスを保てず、そのまま地面へと倒れると、続けて背中に感じるのは、強い衝撃と鈍い痛み。
「っっいってぇ」
痛みを堪えながら目を開けると、視界に広がったのは朱。
正しくは朱毛だった。状況を理解しようと、倒れたまま上体を少し起こす。
ユーリの上には、10才にも満たないだろう、幼い少年が眠っていた。
「…なんなんだいったい?」
「クゥン…。」
状況が理解出来ず、呆然とするユーリに、ラピードも理解不能とばかりに悲しそうに啼いた。
―――――――――――
朱毛の少年との奇妙な出会いから2ヶ月後、下町は突然の水道魔導器の故障で騒ぎになっていた。
駆り出された現場の噴水に、魔導器がなくなっている事に気付いたユーリは、貴族街にあるモルディオの屋敷へと足を進める。
「ユーリ!!」
名前を呼ばれて振り返ると、朱毛の少年が走って追いかけて来ていた。
「ルーク?着いて来ちまったのかよ…。」
やれやれと思っていると、ユーリの腰にルークと呼ばれた少年が抱き着いてくる。
「どこ行くんだよ!?」
「ちょっと野暮用でな。すぐ戻るから、お前は先に部屋に帰ってろよ。」
そう言って引き離そうとすると、逆に腕に力を込められる。
「ユーリが行くなら俺も行く!」
「おいおい、遊びに行くんじゃないんだからな?」
「大丈夫だって!何かあったらラピードが守ってくれるから!」
「なっ!」とルークが笑顔でラピードを振り返れば、彼はユーリに諦めろとばかりにワンと吠えた。
「…裏切り者め。」
諦めの溜め息をつくと、ルークの顔がパァっと輝き、更に深い溜め息をつく。
2ヶ月前に出会ったこの少年は、ルークと言う名前以外何も覚えていない状態だった。
仕方なく、暫く一緒に暮らす事としたが、ルークは好奇心旺盛なくせに人見知りが激しい。
女将さんや年齢が近いテッドには大分慣れたものの、他の人物だとユーリの背後に隠れてしまうのだ。
そんな彼を、一人残していくのも不安がないと言ったら嘘になる。
ユーリは今度こそルークの体を引き離し、その小さな手を握る。
「たくっ俺の側から離れんじゃねーぞ?」
「おう!」
返事だけはいいルークに笑いながら、二人と一匹は再び貴族街へと足を進めた。