ルークinヴェスペリア
□始まりの鐘がなる時
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「ユーリ!?」
驚いて駆け寄って来たルークを抱き留めると、行く手を阻む兵士の後ろから、笑い声が聞こえてくる。
「子守りの仕事をしながら不法侵入とは、いくら貧乏でもちょっと欲張り過ぎじゃないか、ユーリ=ローウェル?」
そこには青色の髪に、騎士団とは思えないド派手な服に身を包んだキュモールが、こちらを見下すような視線を向けて佇んでいた。
「どっかの税金泥棒みたいに、給料がよくないんでね。そっちは魔導器泥棒の片棒まで担ぐとは、忙しないねぇ?」
笑いながら嫌味を返していると、ユーリの腕の中にいる人物から「うわぁ…」という声が上がる。
「凄い服。ユーリより…えっと、エロイって言うんだっけ?奇抜?」
「お前なぁ…誰だよこいつに変な知識植え付けたの?」
空気を読まない場違いな発言に、肩をがっくり落として脱力していると、キュモールが鼻で笑いながらこちらへと近付いてきた。
騎士団とは、本来弱き者を守る為に存在するはずなのだが、その視線は、ユーリ達を人ではなく、まるでゴミでも見るかのように冷たい。
その目を見据えてしまったのか、体を強張らせるルークを安心させるかのように、ユーリはそっと頭を撫でてやる。
「平民風情が。お前達にはこの気品溢れる服のセンスなど理解出来まい。…ん?」
キュモールは何かに気付いたようにルークへ目を止めたかと思うと、服を掴んでユーリから引き剥がし、そのまま体を持ち上げた。
「うわぁぁ!?は、離せー!!」
「薄汚れてはいるが、かなり上質な生地だな。…ふん、大方何処かから盗んできたんだろ。」
「……おい、そいつに手ぇ出すな。」
ユーリは先程までの余裕そうな雰囲気を一変させ、眼差しを鋭くすると、声を低くしてキュモールへと一歩を踏み出す。
目の前の男の急な変化に、キュモールも驚いてたじろぐが、控えていた兵士の一人が隙をつき、ユーリの後頭部へと打撃を与えた。
衝撃に目の前が掠れ、意識がぐらつく。
「…っく……」
それに続くように、他の兵士も次々と押し寄せ、ふらつくユーリの体を地面へと押し付ける。
薄れ行く意識の中、朱毛の子供がユーリの名前を呼びながら手を伸ばしているのが見えた。
それを最後に、完全に意識が途絶える。