ルークinヴェスペリア

□記念もの
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鬱蒼と茂る木々により、仄かに地上を照す月の光でさえ遮断された暗い静かな森の中。


小さな簡易テントが二つ立てられ、そのすぐ傍には焚き火の炎がゆらゆらと揺らめき、時折ぱちっと爆ぜる音が聞こえてくる。


長い旅の道中、手頃な開けた場所で野宿するのは珍しい事ではない。
特に、暗い森を歩み続けるのは道を見失う可能性が高く、夜目の効く凶暴な魔物に襲われる危険性もある。
一旦身体を休め、明るくなってから行動するのが一番好ましく、ユーリ達も例に漏れず、焚き火番権見張り役を交代で“一人”残して身体を休める予定だった。




焚き火の炎を絶やさぬよう薪を焼べながら、ユーリは隣で自分に背を向けて寄り掛かってくる子供の様子をチラリと一瞥した。


「お子様はもう寝る時間じゃないのか?」


「…まだ眠くない。」


「の、割には瞼が随分重そうに見えるのは気のせいか?」


「ね〜む〜く〜な〜い〜!!」


ルークは半分閉じ掛けた瞼を完全に閉じると、そのままぷいっと顔を焚き火とは逆の方向へと逸らしてむうっと剥れてしまった。


隣で寝そべっていたラピードがチラリと蒼い瞳を向けるが、ユーリが肩を竦めながらも大丈夫だと苦笑すると、瞼を下ろして再び眠る体制に入った。


他のメンバーも熟睡とまではいかずとも、そろそろ眠っている頃合いだろう。
レイヴンやジュディス辺りは起きているかもしれないが、彼等は自己管理をちゃんと弁えているので問題ない。
問題は、明らかに眠そうなのに、頑なに眠くないと主張するこの子供の方だ。


それでなくても森の中を1日延々と歩きながら戦闘を続けたのだ、前線で、おまけに体の小さいルークが疲れていない筈がない。


「俺も交代の時間になったら休むから、先にテントで寝てろよ。ここにいたって寒いだけだろ?」


「…焚き火があるから寒くないし、眠くもないもん。」


「ほほう、あくまでそう言いきるか?」


確かに焚き火はあるが、それは手を翳せば暖かいという程度で、夜の森全体を包み込むようなひんやりとした空気の方が確実に勝っているだろう。


ユーリはにやりと笑うと、隣で寄り掛かる子供の両脇に手を差し込むと、軽く持ち上げた。


「よっと、」


「おわぁ!?」


ルークの体をそのまま自分の膝元に移動させると、防寒の為に肩から掛けていた毛布で後ろから包み込むように抱き寄せる。
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