09/29の日記

15:49
本日ハ晴天、異常気候ナリ(後編)
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そういえば、医務室の前を通った時に何やら騒がしかったな。
あの時はとうとう誰か暑さにやられたか?と思っていたのだけど…ロイドが話を聞いたのが鍛練の前ならば、頃合い的にちょうどいいだろう。


「医務室行っても、今頃大忙しだろうな。」

「え!?そうなのか!?」

「もしかして、誰か倒れたのかい!?」

「あ〜…まあ、そうかもな。」


驚く二人に曖昧に言葉を濁してちらりと背後を見やる。
視線に気付いたルークがムッとした表情でそっぽを向くと、緩慢な動きで立ち上がった。
クレスとロイドが心配そうに声を掛けると、ばつが悪そうに苦笑し、大丈夫だと告げる。


「二人共悪ぃ。だいぶ楽になったし、あとは部屋で休むわ。」

「本当に大丈夫か?きつかったら俺が部屋までおぶって行ってやろうか?」

「それか、僕とロイドで両サイドから肩を貸すとかはどうだい?」

「だーかーら!んなガイみたいな過保護になんねーでも、自分で歩けるから大丈夫だって!!」


確かに。まだダルそうではあるが、見た感じふらついてもいない。部屋までなら問題なく歩けるだろう。
三人のやり取りを眺めながら、ふむ、と顎に手を添える。


ルークの顔色はあまりよくないが、発熱はしていなかったし、かといって別段低めなわけでもない。汗も別に異常なほどかいているとかいうわけでもなく、これぐらいならまあ普通だろう。呼吸も比較的正常。ということは、だ…


「おい、お前ちゃんと朝昼食ったのか?」

「あ゙〜?このくっそ暑いのに食欲なんかあるわけねーだろが!?」


―その態度の違いはなんだこの野郎。



多少の理不尽さはあるが、まあこのお坊ちゃんが食って掛かってくるのなんて今に始まった事じゃないんで別にいい。俺も大人だ。


「この暑い中何も食べずに身体動かしゃ、そりゃダウンもするわな。」

「あ〜、そういう事か…」

「ん?腹へって動けないって事か?」

「…食欲ねーんだよ。」


ブスくれるルークに、ビシッと人差し指を突き付ける。
びくりと揺れた肩ににやりと笑みを浮かべ、独断の診断結果を告げた。


「熱中症の初期段階ってとこか。栄養不足に…軽い脱水症状もあるかもな。果物でもいいからとにかくなんか胃に入れて水分補給、だるいようなら首筋とか太股冷やして風通しのいい格好して寝てろ。」


口早に告げると、おぉ!!と歓声が上がった。


「よくわかんねーけど、すっげーなユーリ!!」

「何か医療の勉強でもしてたのかい?」

「は?んなもん見たことすらねーよ。」


尊敬の眼差しを向けてくれているとこ悪いが、昔フレンに渡された騎士の心得とかいうマニュアル本を30分後には枕にして寝ていたという過去を持つ俺だ。自慢じゃないがな。医療本なんて5分で飽きる自信がある。

そもそも自分が机に向かって勉学に励む姿など想像出来ないし、知識だけならばエステルとかの方がよっぽど詳しいだろう。


楽し気に話合う二人に伝わったかはわからないが、まあいいかと話の打ちきりを示唆するように立てた親指を扉の方へと向けた。


「とにかくだ、お前らも体調崩す前にさっさと風呂入って汗流してこいよ。」

「そうだね。このままだと流石に気持ち悪いし。」

「だよなー。んじゃ、ルーク部屋まで送って大浴場行くか!」

「お、送るってもらわなくても子供じゃねーし!一人で戻れるっつーの!」


顔を赤くしてルークは拒絶するが、そんな事で怯む二人ではない。

にかっとロイドからは人好きのする笑みを浮かべられ、たじろぐお坊ちゃんに追い討ちをかけるように「僕らが行きたいだけだから」とクレスにも微笑みを向けられる。



―流石、勝負あったな。



友人二人からのダブル攻撃にルークは更に顔を赤く染めてあーだのうーだの言っているが、落ちるのは時間の問題だろう。


他の奴らならともかく、ルークの性格をよく知る二人だ。
素直じゃない言葉の裏側の意味もわかっているだろう彼らに勝てるはずもない。

とはいっても、あの二人も別に計算しているとかではなくあれが天然なのだからある意味では質が悪い。
クレスはまだましな方だが、ロイドなどはあのゼロスに『ハニーは攻略王なのよ』などと言われていたほどだ。天然無自覚の老若男女問わない攻略王か…好青年ってのは恐ろしいな。


「こいつの部屋って確か風呂場と逆方向だろ?なら俺が部屋まで送ってやるよ。」

「え!?」

「ユーリが!?」

「お前、暑さで頭おかしくなったんじゃねーの!?」


……


それなりにこのギルドにいるが、親切で言ったはずなのにまるで信用されてないってどうなんだ。

隠しもしない三人からの疑惑のオーラに多少のめんどくささを感じながらも、あー…と頭をガシガシと掻く。


「ちょうど食堂行こうと思ってたんだよ。こいつはそのついでだついで。」


「ついでって何だよ!?お前に来てもらうくれーなら一人で戻るっつーの!!」


人の耳元で叫ぶお坊ちゃんに片耳を塞いでああ、はいはい。と適当に相槌を打てば更に喚き出すというループが起こる。お貴族様の教養に『人の耳元で叫ぶな』という言葉を追加してほしいもんだ。つーか、これだけ元気なら本当にもう放っておいてもいいんじゃないか?


そんな考えが頭をふと過るが、例の天然組が微笑ましそうにこちらを見ている事に気付いてしまい、今更逃げ場がない事を悟ってしまう。

確かに言い出したのは俺だ。だがこんなに送りがいのない相手も初めてであり、喚かれながら道中を共にしなければいけない俺の気持ちも誰かわかってほしい。


軽はずみな発言は今度から控えようと密かに誓い、ルークの手首を掴んで歩き出した。突然の事で体制を崩し、つんのめりながらルークが文句を言ってくるが聞こえない振りをしてそのまま歩く。


「にしてもあっちぃなここも…やっぱ涼しいのは食堂だけか。」

「え!?食堂涼しいのか?マジで!?」

「お〜、あそこは火使うからな。冷房ないと死ぬだろ。ただしあんまり居座るとお玉が飛んでくるから気をつけろ。」




━━立ち去る二人の背中が見えなくなると、残された二人がどちらからともなく笑いだす。


「普段は嫌いだー!とか言ってるけど、なんだかんで仲良いよなあの二人。」

「お互い気付いてないみたいだけどね。」


同じギルドとはいえ広い船だ。本気で避けようと思えばそれほど難しいわけでもない。


「ユーリが俺達に話し掛けてくるのって、だいたいルークが一緒にいる時なのにな。」


「ルークはルークで本気で嫌いなら逃げてしまうしね。嫌いというより、寧ろ喧嘩を楽しんでるって感じかな。」


「あはは、二人共変なところで似てるな!」


「頑固なところとかね。さて、僕達も早く汗流して食堂にお邪魔しようか?」


きっとそこでもまた喧嘩してナナリーやリリスに叱られるんだろう。クレアならば全てを見透かしたかのように静かに微笑んで成り行きを見守っているかもしれないけれど。


安易に想像出来る光景に大浴場へと向かいながら笑いあう。


さっさと素直な気持ちをお互いに認めてしまえばいいのにと心の中で呟きながら。





「…でもルークそういう事には鈍いから本気で気付いてないのかもね。」


「あ〜…」




━二人の想いが通じあうのはまだまだ先のお話。

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