02/20の日記

10:08
バレンタイン戦争
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久しぶりにマイソロ2の二人

犬猿の仲から始まるLOVEもいいですよねー



2月14日。一部の女の子にとっての一大イベント、いわゆるバレンタインデーというものが世の中には存在する。一般的には女子が男子に好意を伝える為の日、とも言われているが、日頃の感謝と友愛の意味を込めての贈り物の方が主流かもしれない。つまり“義理”というやつだ。

アドリビトムの女性陣も例外ではなく、昨日の晩から台所を占領して『男子立入禁止!!』などとでかでかと書かれた貼り紙がドアに貼られている始末。

扉の前に行けばチョコレート独特の甘い香りが漂い、男性陣はクレアとパニールから手渡されるお弁当に苦笑するしかない。
こういうイベントは女性同士の親睦を深める為のものでもあり、蚊帳の外である男性陣は微笑ましく見守るしかないのだ。
「なんか紫色の煙が出てた」とカイウスが青い顔で語ったが、見守るしかないのだ。
女の子から笑顔で渡されるチョコレート。これが毒物だとわかっていても快く受け取るのが男というものだ。頑張れ一部の男共。


これがユーリの認識している一般的なバレンタインデーというものなのだが、例外というものは何時の時代でもあるもので、



「ユーリ!Happyvalentine!!」



満面の笑みで手を差し出してくるお坊っちゃんの対処方など、ユーリが知るわけもないのだ。


差し出された手をたっぷり10秒程まじまじと見つめた後、ゆっくりと顔を上げる。
とても悔しい事に中性的に整った顔とふわふわの髪だけ見れば女性に見えない事もない。男だが。


「?」


相手が笑顔を作ったままこてんと首を傾げると、赤よりも朱に近い髪も同時にふわりと揺れた。
言い直そう、それなりに鍛え上げられた腹筋さえ見なければだぼだぼの服で女に見えなくもない。男だが。大事な事なので本人の為にももう一度言っておく。


ルーク=フォン=ファブレは男である。
ちょっとだけ可愛いとか思ってしまった残念な自分は墓場まで持っていこうと思う。


よし、と謎の達成感を味わった後「で?」とルークとの本日初めての会話を…いや、最後に話たのは確か3日前のおはようだ。ちゃんとした会話は1週間ぶりくらいかもしれない。


「その手はいったい何のつもりですかねお坊っちゃん?」


指差したのは勿論ルークの掌。happyValentineとか言っていたのだから、ここで「いつもありがとな!」とか言いながらチョコレートを差し出されたならばうっかり恋に堕ちてしまう可能性も…ねぇわ。
まあとにかくだ、差し入れとか言って義理チョコとか配ってたらまだ可愛気があるが、残念ながらルークの掌には何も持たれていない。
なんだ、心が清くないと見えないチョコレートなのか。そんな甘党好きには生殺しなもん望んでないから普通のチョコをくれ。


「何って、今日はチョコ貰える日なんだろ?」

「ほう。で?」

「持ってんだろチョコ?よこせよ」

「そうかそうか。で、スパーダ辺りの差し金か?」


きょとんとした顔はなぜわかった?と物語っていて、やっぱりそうかと重い息を吐き出した。


手を差し出してきた時からなんとなくそんな予感はあった。さっきも言った通りユーリとルークにはほとんど接点がなく、話す機会も少ない。別段仲が悪いとかではないが、良くもないのが現状だ。ランクで言ったら顔見知り程度。会ったら一応挨拶はするが、その程度の仲であったとユーリは認識していた。
のに、久しぶりの会話が満面の笑みでカツアゲだ。勘弁してほしい。


「さっき書類整理終わってジェイドに今日はもう自由にしていいって言われたんだけどさー、疲れたからなんか甘いもんでも…って思ったら食堂立入禁止で。」

「ああ…」


昨日の晩から仕込んでいたのならば、時間的にはいい加減出来ていてもおかしくない頃合いだ。ということは、おそらく今はラッピングに取り掛かっているのだろう。ルークもせめてあと1時間後に来れば食堂に入れただろうし、お望みの甘いお菓子もたんまり貰えただろうに。タイミングが悪かったとしか言えない。


「んで、部屋に帰ろうかと思ったんだけど…食堂からなんかすっげー甘くていい匂いすんだよ!なんだこの生殺し!?って思ったら余計甘いもんが食べたくなってさー。その辺いたスパーダに愚痴ったらユーリんとこ行けって」


なるほど、つまりは体よくあしらわれたというわけだ。しかしバレンタインデーというものがよく分かっていないであろうこのお坊っちゃんにあの台詞。カツアゲの件も含めて後で挨拶にでも行こうか。

どうお礼をするべきか、などと考えながら腰に下げた道具入れ用の布袋を漁る。
数秒もせず目的の物が見つかると、それを指で摘まんでルークへと差し出した。


「手」

「へ?手?って、うわわ!!?」


状況がいまいち分からず、ユーリの行動を見守っていたルークの手を取ると、アルミに包まれた小さな塊をころんと掌に落とした。

中身は勿論お望みのチョコレート。
仕事で疲れているのは本当だろうから、ユーリなりの気遣いだ。自分の糖分補給用なので小さいが、ルークのような好青年っぷりを発揮している男子ならばほとんどの女性陣から後で嫌というほどチョコを貰えるだろう。


「え?え?マジでくれんの!?うわぁ、サンキューユーリ!!」


ユーリとチョコを交互に見てぱあっと笑顔を作るルークに、良いことをしたとユーリも頷く。
些か大袈裟ではあるが、ここまであからさまに喜んで貰えるとあげがいもあるというものだ。


「普段から持ち歩いてるとかまっさかぁ、って思ったけど、流石リオンに負けず劣らずの甘党王!冗談半分でも言ってみるもんだな!」

「はっはっはっ、やっぱ返せそれ」

「イヤだ」


奪い返そうと腕を伸ばすも、ルークはチョコを守るように両手で包むとくるりと背を向けた。次いで聞こえるのは銀紙をかさかさと剥がす音。

ユーリは利き手を腰に添えて暫しそれを見守り、チョコの塊がルークの口に入ったと同時に口を開いた。


「因みに、それ受け取ったら1ヶ月後に三倍返しすんのが基本だから」

「!?」


ギョッとして振り返る相手ににやりと笑みを作る。ルークは何か言おうと口を開きかけ、はっとしたようにすぐにまた閉じ、無言でもごもごと口を動かしだした。おそらく口の中を空にしようとしているのだろう。
こういう変に上品な所はやっぱり貴族のお坊っちゃん故だろうか。


「おまっそういう事は先に言えよ!?食う前に叩き返してやるから!!」


違った。ただのチンピラだ。こう、最後に「てめぇ、覚えてろよ!!」とか捨て台詞吐いて逃げ帰ってく感じの。
ああ、でも確かスパーダも貴族だったか。最近の貴族のお坊っちゃんは皆口が悪いのだろうか。

ユーリにとって貴族には元々いい印象は持っていないのだが…チンピラ貴族か、残念だ。何故だかとても残念な気分だ。


「ま、食っちまったもんはしょうがねぇよなぁ、お坊っちゃん?」

「うぐぐっ」


別に本気でお返しが欲しいわけではない。
久しぶりの会話だったのもあり、ちょっとからかって「冗談だ、仕事お疲れさん」と言うつもりだったのだ。



この時までは



悔しげにユーリを見上げていたルークだったが、突然あ!と叫んでぽんっと手を打つと、ズボンのポケットに手を突っ込んだ。


「昨日貰った飴が確か…お、あったあった!」


かさりと音を立てて取り出したのはピンクのストライプ柄の包み。「ん」と差し出されたその姿は両サイドを捻って口を閉じている。確かに飴だ。何故これを食べなかったのだろうか。


「これで貸し借りなしな!」

「今日はチョコ日じゃなかったのか?つぅか、誰に貰ったんだよこれ?」


まさかとは思うが、ハロルドとかじゃないよな?
そう目で問えば、ルークは違う違うと片手を降って苦笑した。


「昨日買い出しに行った時に道具屋の親父がオマケ、とか言ってくれたんだよ。いやー、ポケット入れたまますっかり忘れてたわ」

「そうか、お前は人の好意を溶けかけの飴で代用するのか」

「と、溶けてねぇってたぶん!いいから受け取れったら!今度また菓子用意してやるから!!」

「じゃあもうそれでいいわ。それはお前が貰ったんだからお前が食えよ」

「だってチョコの日にあげねーと三倍返しなんだろ!?」

「そもそもチョコですらねーじゃねぇか!!」


繰り返されるのは「受けとれ!!」「要らねぇ!!」のおうむ返し。段々とお互いバレンタインとかそういうのは二の次で単なる意地と意地の張り合いと化す。




気付いた時には互いの手と手を取り合い…




取っ組みあいの喧嘩へと発展していた。
もはやお互い引くに引けず、とうとう引き返せない所まで来てしまった感じだ。


「諦めて受け取れよ俺の気持ちをーーー!」

「あほか!そもそもお前じゃなくてそれ親父の気持ちだろうが!」

「じゃあ俺と親父の気持ちで二倍の想いを込めてお前に届けてやるよ!」

「要らねぇっつってんだろ!お前こそ親父の気持ちをもっと尊重してやれよ!!」


親父の親切にどんな想いが込められていたのかは知らないが、これだけは言える。
いい迷惑だ。

今にも抜剣しそうな雰囲気に、憐れな通行人がいなかったのが不幸中の幸い。いや、寧ろ誰かいた方が抑え役となったかもしれないが、すべてが遅すぎた。
今うっかり出会しても殺気立つ二人の前に大抵の者はUターンして帰るだろう。


永遠に続きそうなこのバカな言い合いは、ルークの蹴りが偶然にもユーリの脛にクリティカルヒットした事により幕を閉じる事になる。


「っって!?」

「隙あり!」


相手が痛みに顔を顰めた隙を見逃さず、ルークは素早く包みから飴を取り出してユーリの口へと突っ込んだ。まったく無駄のない動きにどうする事も出来ず、がくりと膝を着く。
ふわりと咥内に広がる苺の味が憎らしい。


「食ったな?食ったよな!?食ったんだからもう返品不可だからなユーリ!!」


謎の敗北感。四つん這いでがくりと項垂れるユーリに勝ち誇った笑みで見下ろすルークはそれはもう悪役っぽい。
やっぱりチンピラ貴族だと心の中で毒突き、ユーリはゆらりと立ち上がった。


「?ゆーっっ!!!?」


訝しむルークの頭を力一杯両手でがしりと掴み、顔を近付ける。


「いだだだ!!って、ちょちょちょちょっまてまてまてまて!!!」


近過ぎる顔に気付いたルークが慌てて応戦するが、 身長差が災いして進行を止めきれない。
後数センチで届きそうな口からは、苺の甘い香りが吐息と共にルークの口へと吹きかかる。



「それシャレになんないから!お互いの心に傷を残すやつだからぁぁぁ!!い゛や゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛」


ルークの渾身の叫びは艦内中に響いたとかなんとか。




***



「本気でするわけねーだろ。これだからお坊っちゃんは」

「黙れ糖尿病予備軍」


頭にタンコブを作ったルークとユーリが甲盤で正座をさせられていたのはそれから30分後の事。ゲシゲシと蹴り合う彼らの周りにはまるでお供え物のように可愛らしくラッピングされたチョコ達が置かれていた。



この日を境にお互いの顔を見る度にくだらない喧嘩をするようになったのだが、それはまた別のお話。


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