main

□僕のところにおいで。甘いお菓子もあるよ。
1ページ/1ページ

応接室にある冷蔵庫を雲雀が私用に占領したのは、日が短くなり始めた秋頃。風が柔らかさをなくし、冷たく刺すような厳しさを垣間見せ始めたのも同じ頃だ。
それから半年。
開けることも触れることさえも禁じたそこは、草壁すら中身を把握できていない。下手に触れていらぬ叱責を受ける気にはならず、半年たった現在では存在を忘れることしている。
そんなブラックボックス扱いを受けている冷蔵庫は、最初こそペットボトルや生菓子などの雲雀が持ち込んだものを入れていたが、今は別のものを入れている。


「おなか空いた」

唐突に告げられた言葉ではあるが、山本は慣れた様子でソファから立ち上がり、部屋の隅にある冷蔵庫を開ける。

「んーっと、プリンと一昨日からあるワッフルとー…、ベーグル」

冷蔵庫を開けるための第一声は、最近決まってこの言葉になっている。
そして、雲雀がこの言葉を口にするのは、決まって山本が側にいるときだった。

「たしかクリームチーズ入れてたよね。それとベーグル」
「さっき草壁さんの差し入れ食ってなかったっけ?」
「食べたけど、おなか空いた」

このように稀に口を挟むが、命じれば雲雀のために軽食を作る準備を始める。雲雀はその間、手際よく動く手を盗み見ながら風紀委員の仕事を片付けている。

「食べすぎると晩飯入らなくならねえ?」

簡易キッチンで仕上げた軽食を渡しながらいつもの決まり文句を口にするが、本気で言っているわけではない。

「このくらいでお腹一杯になったりしないよ」

雲雀の返す言葉も決まり文句となっている。

「まさかヒバリと一緒におやつ食べるようになるなんてな〜」
「それはこっちの台詞だよ。チョコの僕のだからね」
「はいはい、わかってます」

雲雀と過ごす時間におやつタイムが組み込まれてからはや半年。二人が時折こうして午後の一時を過ごしていることは、誰も知らない。

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ