赤い妄想綴り(弐)
□入れ替わり -佐助-
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目を開けると、眩しい日の光が飛び込んで来て、佐助は何度も瞬きした。
「…?」
自分の置かれた状況が瞬時には理解できない。
どうやら屋外、地面の上に仰向けになっているようだ。
「!」
そしてハッとする。
そうだ、今日は山歩きに出かけると言う信玄たちの
護衛としてついてきて…
落ちたのだ、崩れた道から浅い谷へと。
姫と、一緒に。
慌てて起き上がった佐助は息を飲んだ。
視線に入った自分の姿は。
細く白い手、赤い着物。流れるような黒髪。
いつの間に、変化した…?
いやそんなはずはない、と振り返ると
そこに、横たわっていたのは。
いままでこんな風に見た事などあるはずもない、自分の姿だった。
「…な…なに…?」
思わず唇から漏れた声は、涼やかな姫の声。
当然、恐慌に陥りそうになるのを必死にこらえて
横たわる自分の肩を揺らすと、薄く目が開いた。
「…あ…。」
切れ長のきつい視線が、しだいに大きく開かれて事態を理解できずに固まる。
「…え、え?えっ?私?な、なに?」
こちらも聴きなれた自分の声なのに、なんとも頼りなく。
「…入れ替わっちまったみたい、だな。」
姫の声が言う。
「えええーー!?」
佐助の声が谷を突き抜けた。
*************
「…ど…どうして…?」
普段なら絶対しない、両手で自分の顔を包むような仕草で佐助が言う。
「俺にも何がなんだかわかんねーよ。ちっ、そんな辛気臭い仕草すんな。」
姫も今まで絶対見せた事のない、イライラした表情で言う。
「さ、猿飛こそそんな顔しないで下さい…!」
佐助が弱々しい声で訴えた時、遠くで二人を呼ぶ声がした。
ハッとした姫はがっちりと佐助の肩をつかんだ。
「と、とにかく俺の振りをしろ。こんな事、誰にも言えねぇ、絶対元に戻れるから!」
そして細腕で支えて佐助を立たせると自分の着物をパンパン、とはたいた。
「きゃ!」
と、佐助が悲鳴をあげた。
「な、なんだよ?」
見ると、忍び装束の裾を必死で伸ばそうとしている。
「あ…足が…足が丸見えで…。」
「しかたねーだろ!どうせ俺の足だ、気にすんな!」
「で、でもこんなの恥ずかし…。」
「恥ずかしいだと!言ってくれるな?泣くなよ!その顔で泣くなっああもうっなよなよすんなよ!」
大またで一歩踏み出しながら、佐助は自分も泣きたくなっていた。