赤い妄想綴り(弐) 

□三つの贈り物
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春まだ浅い、ある朝。
信玄の部屋に、幸村と佐助が呼ばれていた。

並んで座る二人の前でなにやら楽しげな信玄の顔に、一抹の不安を感じた佐助は
一刻も早くこの場を去ろうと口を開いた。
「わざわざ呼びつけて何の様だ?用命ならばさっさと言えよ。」
「佐助、お館様に向かって無礼な口を利くな。」
それを幸村が制したが、信玄は意に介さない様子で笑みを浮かべたまま
「さて、姫が甲斐に来てちょうど一年になるな。」
とゆっくり言った。

「は?」
「ちっ。」

幸村は意外な話題に驚き、佐助はなんだそんな話かよ、と渋い顔をする。

二者の異なる反応さえも楽しみながら、信玄が続けた。
「それでな、我は考えたのだ。姫が甲斐に来てからと言うもの日々心躍るばかり。
その感謝の意を込めて何か贈り物をしたいと、な。」

「…贈り物、ですか…。」
「すればいいだろーが、勝手に。」

「ふふ、最後まで聞け。未だ我と幸村の勝負はつかぬまま。そこでそれぞれ趣向を凝らした
贈り物で競おうではないかと。」

この台詞には、幸村も目を大きく見開き、佐助は佐助で驚いてるのか不機嫌なのか呆れてるのか
よくわからない表情で信玄を睨んだ。
「ちょっと待て、それぞれってのは幸村様と信玄だろ?俺は関係ないぞ。」
そしてもういいだろ、と立ち上がるのを信玄が手を上げて止める。
「まあ待て、佐助。お前の事だ、この女子苦手最高峰が悩めば何とか手伝いたくなろうて。
それで我が不利になるとも思えぬが、お前自身がどんな贈り物を考えるか見たくもあってな。」
「お館様!」
これには驚愕顔のままの幸村も黙ってはいられない。
「俺が佐助に助けを請うなど、そんな卑怯な手を使うとお思いですか!正々堂々と戦います!」

ふふふ、と信玄が満足そうに笑う。
「よし、では幸村は良いな。佐助、主に勝てる自信がないか。」
「そうじゃなくて!必要性がねーだろって言ってんだ、なんで俺が姫に…!」
「佐助。」
まだ座位のままの幸村が、静かに佐助を見上げて呼んだ。
「良いではないか。俺もお前が何を考えるか見たい。日頃乱暴な口をきいて失礼しているのだから
たまには姫様のお気持ちを和らげて差し上げろ。」
「幸村様!」
佐助が慌てて膝をつき、抗議しようと声を荒げたが信玄がパンパン、と手を叩いた。

「これで決まりだな!では期限は一週間、何を贈るかは自由。姫を一番喜ばせた者が勝ちだ。」
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