赤い妄想綴り(弐) 

□赤い鳥
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小さな鳥かごの中で、赤い小鳥がチチ…と囀っている。

「可愛い…。」

思わず姫が微笑んで足を止めた。

ここは信玄の部屋。





暖かな春の日差しに誘われて、中庭からぐるりとまわって屋敷を散策していた姫は
いつの間にか信玄の部屋近くにまで来ていて主の姿を探したが、留守のようだった。

けれど姫の目はふと、棚に並べられた鳥かごへと止まった。
「これは、いつか信玄様が懐に入れていた鳥と同じ…。」
急を知らせるために空へと放ち、危ない所を幸村に助けてもらった事がある。
「何羽も飼ってらっしゃるのかしら…。」
三つ並んだかごにはそれぞれ一羽づつ入っている。

「あら?」

ふと見ると真ん中のかごの中で小さな餌入れがひっくり返っていた。
「まああなたがやったの?ふふ…これでは食べられないでしょう。」
姫は扉を開けて直してやろうとした。と、そのとたん

「あ!」

まるで待っていたかのように赤い鳥は外へと飛び出した。

「ま、待って!」

叫んでみても、聞いてくれるはずもなく。
姫は着物の裾が乱れるのも構わず追いかけて走り出した。
そして白い腕を袖から惜しげもなく覗かせて空へと伸ばす。

だが

小鳥は見る間に躑躅ヶ崎館の空高く舞った。

「…ああ…ど、どうしよう…。」

もう自分の手は届かない。
姫は一瞬頭の中が真っ白になりただ呆然と立ち尽くした。



突然姫の目に、何かがピョン、と屋根を飛んで行くのが見えた。
明らかな人の姿。
「…猿飛…?」
続いてもう一人。

と思ったらまた一人、そして次に…とついには十人が空を舞っている。

「こらクナイ投げるな!生け捕りだ!」
「そっち行ったぞ甚八!」
「六郎、そこだ!」

ほどなくして、赤い小鳥は疲労困憊の様子で姫に手渡された。

「…良かった、ありがとうございます。鷹にでも襲われたらどうしようかと…。」
無事にかごへと戻し、涙目になる姫を佐助が仁王立ちになって見下ろしている。

「あんたが何かやるとこっちが迷惑すんだから、とにかく余計な事すんな。いいな!?」

「…は、はい。」

叫ぶと同時に消えるように去った佐助だが、姫にはちゃんと分かっている。
いつも影で見守ってくれている事を。





「おや?」
信玄は部屋に戻って来て、姫が書机に伏しているのに驚いた。
「我を待っておったのか…何とも可愛らしい姫よのう。」
そしてすやすやとうたたねする姫に近づいた。

安らかな顔は寝ていても美しい。
信玄は辛抱溜まらず、そっと顔を近づけた。

ヒュンッ

と、どこからか小石が飛んで来て信玄の後頭部を直撃した。

「む?」

あたりをみまわしても誰も居ない。
信玄は渋い顔をして姫にそっと、自分の羽織をかけてやった。

「これならば文句はなかろう。」
やれやれ、と苦笑いしながら。



'10'03'31

意識調査の佐助コメントがなかなかにツボでございました。
それで書いたわけではないんですけど。(笑)

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