赤い妄想綴り

□お守り
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☆幸村編のネタバレがありますので、ご注意下さいませ。☆





幸村はまだ、目覚めない。



ゆらゆらと頼りなく揺れる、蝋燭の明かりが

熱にうなされる幸村の顔に暗い陰影をつけ、

なお更深刻さを強調する。



「…幸村…。」



ただ、その枕元に座して見守るしかない身の

無力さを姫は痛感していた。

「…私は本当に何もできない…。」

幸村がこんなに苦しんでいるのに。

瞳を閉じると恐ろしい戦いのシーンが、即座に蘇る。

刃と刃の交わる音。男たちの咆哮、火薬の匂い…。

「幸村はいつも、あんな所で戦っていたのですね…。」

武神と謳われ、天下一の大器信玄の右腕として

戦場を駆け抜ける赤備え。

けれど今は、傷を得て横たわるただの青年…。

姫は幸村が五右衛門をかばい、銃弾に倒れたあの場面を何度も思い出して

激しく首を振った。

「…嫌…もう二度と。」

失いたくない、なにものも。

*************



「幸村、それはなんぞ?」
人の気配を感じて慌てて甲冑の中に
何かをしまった幸村は、顔をこわばらせて振り向いた。
「お…お館様。」
頬を染めたその顔に、信玄は眉を寄せる。

もう何度目かわからぬ川中島。
にらみ合いの続く中で、静かな夜を迎えているのだ。

「うむ、その様子では姫じゃな。」
「…な…!」
どうしておわかりに!?と、幸村は驚いた。
そんな表情するのは姫に関する事しかなかろう、と
思った信玄だが、それは言わずに置いて
ちょっと照れながらも幸村が嬉しそうに首の革紐を引き上げるのを見ていた。

甲冑の中から出てきたのは、絹の小さな袋だった。
「…姫が、作って下さいました。」
聞かれる前に、幸村が言った。
「…戦場へは行かぬから、と。
…姫の、髪が納めてあるそうです。」
大事そうに両手でそれを包んで、ますます
幸村の頬が本陣の明かりの中で赤くなる。

『必ず、元気で戻って来て』

幸村の脳裏に、手づから首にかけてくれた姫の
顔が浮かんでくる。
驚いて、緊張して、気の利いた事どころか
礼すらもしどろもどろになってしまったが
姫の温もりはいつまでも感じている。

包んでは取り出し、取り出しては両手で包む、を
繰り返す幸村をじぃっと見詰めていた信玄は
ふいに表情を引き締めた。

「幸村、此度の戦いでは雌雄を決するぞ。」
そして急に現実に戻された幸村が返答する間もおかず
「守るものがあれば余計に強くなるもの!
その力、存分に発揮せよ!」
「ははっ!」
幸村は、お守りをそっと、けれど力強く握り締めた。

…強くなる、俺はもっと!そして…

戦いの空は、少しづつ白くなり始めていた。


   *************

☆おまけ と言う蛇足

「…襦袢じゃな…。」
信玄がぽつりと言った。
「は?」
甲冑にお守りをしまいながら幸村が問う。
「なんでしょうか?」
「その絹、姫の襦袢の布じゃな!…なんとも
色っぽい事をこなす姫よの…て おい幸村!?
は 鼻血!鼻血がまた…誰か、誰かおらぬか!
幸村がまた倒れおったー!」
「…じ、襦袢…姫の…ぐは!…無念…。」

*************

大事な戦いの前に…それよりなんでお館様が
姫の襦袢の生地知ってるのかをつっこみなさい、幸村!(笑)

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