赤い妄想綴り

□影
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…いつからだっただろう?

五右衛門は一人、中庭に出てぼんやりと空を見上げていた。

いつからだろう、姫が自分を追いかけて来なくなったのは?

    *********

「お前は姫様の影となれ。」
物心ついた時から、父からそう言われて来た。
代々、主に最も近いところに仕えて来た家柄に生まれて
歳も変わらぬとくればそれは自然の流れではあった。
幼い頃からずっと一緒だった。
何をするでも同行した。
少しばかり先に生まれた五右衛門の後を
姫は一生懸命ついて来て、
その手を握っては長い事歩いた。

ずっと、姫を守るのは自分だと信じていた。
姫に影のように寄り添い、身を挺して守るのだと。

    *********

「それも、もう終わり…か?」
唇の端だけで笑って振り返ると、長い廊下で
姫が幸村の解けた髪を結んでいた。

「ひ、姫…そのような事は自分で…。」
遠目にも幸村が顔を赤くしているのが分かる。
「妻になったら、私が毎日整えてさしあげますよ。」
姫が笑いながら言う。

…ああ。

二人の会話は聞こえないが、その穏やかな様子は伝わってくる。
姫のあの笑顔は、本物だ。
相手が幸村だと言うのは気に入らないが
姫があんな風に笑えるのなら…

…もう、俺の役目も…


「…つ…妻…?」
幸村が固まる。
戦が終わり天下を取ったら…と誓いはしたが。

「!」
五右衛門が地面を蹴って走り出した。
そしてニヤリと笑って首を振った。
「…いやぁ、まだまだ俺の役目は譲れないね。」

五右衛門の駆け寄る先では姫が慌てていた。
「幸村?幸村どうしたの、その鼻血!
ああ、誰か…!」


五右衛門、やっぱりまだまだ姫様のお側に。

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