赤い妄想綴り

□嫉妬
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「で、どうであった?」
突然、信玄が聞いた。

「は?」
その脈絡のなさには幸村でなくても間抜けな顔で聞き返しただろう。

「それは、何の話でしょうか?」
ひととおり槍の稽古を終え、汗を拭き拭き聞きなおす。

「決まっておろうが!姫じゃ。姫の…
具合はどうであった?」
「なんと!姫は具合がお悪いので!?
はて今朝お会いした時はそんな風には…。」
愛用の槍を落としそうになりながら幸村が慌てると
…この間抜けめ!と信玄がもどかしそうな顔をした。
が、あくまで穏やかに質問を変えた。

「お前はどうだったのだ?一夜姫と過ごして
少しは大人になったのか?」

その直球勝負に、幸村はとうとう槍を落とした。
「…。」
信玄の台詞で幸村の脳裏にあの夜の事が生々しく蘇る。

「…ほう、槍を拾う余裕もないほど狼狽しておるわ。」
失礼!と逃げるどころか運動停止してしまった大事な忠臣に
ちょっと面白くない、と感じながらも
これ以上苛めるのも不憫、と黙った信玄の代わりに
五右衛門が飛び込んできた。

「…お前ぇぇ、そうなのか!?本当に姫と!
ええい、何だそのニヤけた顔は!腹立つ!
拾え、槍を!ブッ殺す!」


「…さて。」
信玄はよっこらしょ、と腰をあげた。
そして叫び続ける五右衛門と意識を飛ばしたままの幸村を放っといてスタスタと
廊下を歩き始めた。
「まあ良い。…後先など関係ないでな。
では我は姫を温泉にでも…。」
信玄は何だかとても楽しそうに含み笑いしながら
今はまだ、何も知らぬ姫の部屋へと急いだ。

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