赤い妄想綴り

□背中と腕の中
1ページ/2ページ

空は青く澄み、小鳥のさえずりがあちこちで聞こえる。

「気持ちいい…。」

姫は思わず胸いっぱいに空気を吸い込んだ。

城の中ばかりでは退屈であろう、と信玄公の言葉があって

今日は城の外に出かけているのだ。



とは言っても、街中など危険極まりないと幸村が譲らず

城からほんの少し歩いただけの裏山ではあるが。



「随分歩きましたが、大丈夫ですか。」

忠義者の幸村があたりを警戒しながら言った。

「大丈夫です。…そんなには遠くありませんよ。」

姫が少し笑って登ってきた道を振り返る。

「ほら、城はまだあんなに近い…。」

「山歩きは慣れてらっしゃらないご様子ですから。」

自分で裏山ぐらいなら出かけてもいい、と言っておきながら

幸村は姫の普段とあまり変わらない衣装に不満があるようだ。



「ええ…まあ…私の国は海沿いでしたから…山はあまり…。」

まばらな木々の間から日の差し込む場所まで来て姫が呟くと

幸村はハッとして足を早めて姫に近づいた。

「…申し訳ありません、余計な事を。」

思い出させてしまったか、と自分を責める表情で頭を下げた。

「謝る事はないわ、幸村。私の国もとても良い国でした。

山と海の違いはあるけれど、甲斐と気質は似ていると思うわ。…幸村にも見せたかった。」

寂しく姫が笑うと、幸村は思わず手を伸ばしてその肩を抱きしめたくなった。

けれどもちろん、そんな事ができようはずもなく、幸村の頬はしだいに赤くなり

伸ばしかけた手はぎこちなく上がったり下がったりを繰り返した。



「!」



そんなじれったいポーズをとっていた幸村の瞳が、一瞬にして変わった。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ