赤い妄想綴り
□背中と腕の中
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空は青く澄み、小鳥のさえずりがあちこちで聞こえる。
「気持ちいい…。」
姫は思わず胸いっぱいに空気を吸い込んだ。
城の中ばかりでは退屈であろう、と信玄公の言葉があって
今日は城の外に出かけているのだ。
とは言っても、街中など危険極まりないと幸村が譲らず
城からほんの少し歩いただけの裏山ではあるが。
「随分歩きましたが、大丈夫ですか。」
忠義者の幸村があたりを警戒しながら言った。
「大丈夫です。…そんなには遠くありませんよ。」
姫が少し笑って登ってきた道を振り返る。
「ほら、城はまだあんなに近い…。」
「山歩きは慣れてらっしゃらないご様子ですから。」
自分で裏山ぐらいなら出かけてもいい、と言っておきながら
幸村は姫の普段とあまり変わらない衣装に不満があるようだ。
「ええ…まあ…私の国は海沿いでしたから…山はあまり…。」
まばらな木々の間から日の差し込む場所まで来て姫が呟くと
幸村はハッとして足を早めて姫に近づいた。
「…申し訳ありません、余計な事を。」
思い出させてしまったか、と自分を責める表情で頭を下げた。
「謝る事はないわ、幸村。私の国もとても良い国でした。
山と海の違いはあるけれど、甲斐と気質は似ていると思うわ。…幸村にも見せたかった。」
寂しく姫が笑うと、幸村は思わず手を伸ばしてその肩を抱きしめたくなった。
けれどもちろん、そんな事ができようはずもなく、幸村の頬はしだいに赤くなり
伸ばしかけた手はぎこちなく上がったり下がったりを繰り返した。
「!」
そんなじれったいポーズをとっていた幸村の瞳が、一瞬にして変わった。