赤い妄想綴り

□良薬口に甘し
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床の中の姫の顔は随分と赤い。
それでいて汗もかかず、時折コンコンと
小さな咳をする。

「姫、苦しいのですか…。」

傍らに控え、じっと見詰めるだけの幸村が声をかけると姫はうっすらと目を開けた。
「…幸村、居てくれたのですか…。」
「もちろんです。ただのお風邪と医者は言いましたが
この幸村、今夜は寝ずに誠心誠意看病致します。」
…まあ、そんな、大丈夫です…と起き掛けた姫がまた咳き込む。
「ああ、無理はなさらずに。お目が覚めたら
この薬を飲んでいただくようにと言いつかってますが
今飲まれますか?」
そんな姫を支えながら枕元の水薬を示すと
姫も頷いた。
「そうですね…早く治さねば皆さんに迷惑を
かけてしまうから…いただきます。」
「迷惑などではございませんが。」
弱々しい姫の台詞に反論しかけた幸村は
それを途中でやめて
「拙者はお世話できるのが嬉し…あ、いえ。」
本音を言いかけてやめた。
間近で見る姫の瞳は熱のためにいつもよりいっそう
潤んでいて、幸村の心臓の音が強くなる。

「…こ、ここは…ひとつ定番の口移しで…。」

幸村が勇気を振り絞って言い、姫の答えも待たずに
勢い良く水薬を自分の口に入れた。

「ゆ、幸村…。」
姫は驚いたが、真剣な表情で近づいてくるので
思わず目をつぶった。

かすかに、そっと唇が触れた気がした。
「…。」

だがすぐにそれは離れる。
「…?」

ゴックン
「??」

姫が目を開けると同時に
「わわわっっ拙者が飲んでどうする!!
ひ、姫、申し訳ありませんっ!」
幸村がこれ以上はないと言う位に慌てている。
「ま…あ…。」
一瞬ぽかんと口を開いた姫はすぐにクスリと笑った。
「幸村ったら…ふふふ。」
そしてまだ力の入らない腕をあげて
座位のまま幸村に抱きついた。
「私は大丈夫です…こうして幸村が
ついていてくれるのですから…。」
「…姫…。」
幸村は更に頬を染めながらもぎゅっと姫を抱き返した。
そしてそのまま姫の熱を帯びた唇に口付けた。

「…駄目、です。風邪をうつしてしまう…。」
姫が抗議めいて言うと
「拙者は病気には滅法強いので大丈夫です。
今一度、薬を煎じて参りますから。」

でも その前に。

幸村は再び姫に口付けた。
深く深く、熱など吸い取ってしまえと言うほどに。


   ****************


翌日、姫の元に来た五右衛門が言った。
「幸村の奴、熱が酷くて起きられねぇらしいぜ。
ただの看病だけで風邪ひくとは軟弱な奴だよなー。
…ん?姫、顔赤いぞ?また熱が上がったか?」




'07'25

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