赤い妄想綴り

□雨
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最近の幸村が目覚め一番に行う事。

それは障子を開けて空模様の確認。

以前なら良く晴れていると気持ちも盛り上がり
「本日は一日鍛錬に費やすぞ!」
と思い 雨ならば
「仕方ない、今日はお館様の執務のお手伝いと書簡の整理でもするか…。」
と少々沈んだものだが

今は違う。


「おお、今日もまた良く降っておる!」
庭木を打ち付ける雨に幸村はにっこり笑った。
好きではなかった雨も、今は胸踊る。
なぜなら外へ出ずにずっと城の中にいられるからだ。
幸村はスキップしそうな足取りで姫の部屋へと向かった。

が 途中で五右衛門に声をかけられた。

「ご機嫌だなあ、幸村。」
「そ、そんな事はない!」
別に悪い事をしているわけでもないのに
つい口ごもってしまう。
「こう雨続きだと身体がなまっちまうよなー。
あ、姫んとこなら今は行かない方がいいぜ?」
やり過ごして進もうとする幸村に五右衛門が食い下がる。
「お前と反対でご機嫌ななめだから。」
「それはどう言う事だ?」
振り向いて幸村が問うと
「女って面倒臭いもんなんだよ。」
五右衛門がしたり顔で答えた。

「姫に何かあったのか?」
ずいと近寄る幸村に今度は五右衛門が一歩下がる。
「おいおい、そんな顔すんなって…
雨が続くとな、姫は…あ、おい!」
歯切れの悪い答えに幸村はくるりと五右衛門に背を向け走り出した。

「姫!宜しいですか、幸村です!」
何事かあったならば一番にお役にたたねば!
そんな信念が幸村にはある。
「幸村?あ、ま、待って…。」
姫の返事が間に合うわけもなく。
幸村がガラリと障子を開けると そこには




濡らした手拭いと櫛を片手に鏡に向かった姫が居た。
その髪はいつものようにサラリと流れてはおらずユルユルと波打っている。
「もー見ないで!雨が降ると駄目なのです。
湿気で髪がこんなになっちゃって…。」
少し口を尖らせて言いながら姫が恥ずかしげに幸村を見上げた。
「ちょ 幸村?鼻血?なんで?」

その御髪の姫様もお美しいです…と言い掛けて
幸村の意識はゆっくりと遠のいて行った。


'07'26

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