新婚さん

□新婚旅行に行こう!E
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今にも雪が舞い降りそうな灰色の雲の下、その穏やかな調べは
憂鬱な空の色など忘れさせてしまうかのように清々しく、そして静かに城の奥から流れて来る。

姫は音色が優しく胸に染みてくるのを感じて、その笛を吹く小十郎の背を眺めていた。


「起きてらして大丈夫ですか?開け放したままで、お寒いのでは?」

やがて廊下で笛を吹いていた小十郎は顔だけを部屋の方へと向けて言った。

未だ床を延べているが、そこへ起き上がり打ち掛けを肩にかけていた姫がいいえ、と首を振る。

「とても美しい音色でした…ありがとう、小十郎。」

姫が丁寧に頭を下げていると、小十郎が首を戻して視線を廊下の向こうに向けた。
するとすぐに力強い足音が聞こえてきて、姫は幸村が戻って来たのだと感じる事ができた。

「姫様!」

少し汗ばんで上気したままの顔で現れた幸村は小十郎に会釈をすると、部屋に入って床の傍に座る。

「起きて大丈夫ですか?もう少し横になられては…。」

小十郎と同じ事を言う、と姫がくすくす笑う。
そして自然に手を伸ばして、幸村の袖を小さく、きゅっと掴んだ。

その仕草はもう何度も目にする小十郎だが、大げさな抱擁などよりもずっと、姫の幸村に対する気持ちが感じられる。

「…。」
思わず自分の袖をちらりと見て、虚しく感じた小十郎は小さくため息をついて新婚の二人に視線を戻した。

「大丈夫ですよ、今まで小十郎が笛を吹いてくれていたので、とても気分が良いのです。」

「そうですか…それはありがとうございます。」

体の向きを変え柔らかく笑うと、今度は深くお辞儀する幸村に、小十郎も一礼した。
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