新婚さん

□新婚旅行に行こう!@
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☆『捧げ物』にあります、「想う過客」の続きです。

・幸村&姫→信玄の勧めで新婚旅行に
・信玄→退屈しのぎに二人の旅行を覗き見&隙あれば邪魔したい
・佐助&五右衛門→嫌だけど信玄のお守り

少々人格が崩れかかってますので、苦手な方はご用心下さい。




小鳥達が舞う空は高く、どこまでも青く澄み渡っている。
微かにそよぐ風はゆっくりと歩く二人の、繋いだ手をさらりと撫でて行く。
姫がふと幸村を見上げると、幸村もまた姫を見る。
どちらからともなく唇を緩め、言葉を発せずとも微笑みあう。
そしてその度にぎゅっと握った手に力を込める。

そんな、傍から見ればどうにも身体がこそばゆくなるような二人は
物売りや先を急ぐ旅人が往来する街道を独自の雰囲気を発しながらのんびりと歩いていた。

「足は痛みませんか?少し、休みましょうか。」
幸村が腰掛けられそうな岩を道筋に見つけて言う。
それに姫は声を出して笑う。
「まだいくらも歩いていませんから大丈夫です。」
このままでは、本当に城下町で泊まらなければなりませんね、と
振り向いて見せる。

二人の目には、遠くともはっきりと躑躅ヶ崎館が見えている。

「そうですねぇ。」
まったく気にせず、幸村が答える。
「まあ急ぎの旅でもありませんし。」
すう、と大きく息を吸い、なんとも暢気に言う幸村に姫も穏やかな笑顔のままだ。
そしてひとつ頷くと、また歩き出す。
進路など見もせずに、互いの顔ばかり見て大丈夫なのかと回りに避けて貰いながら。


『…俺は思うんだけど。』
佐助がぽつりと言った。
『別に旅に出なくてもいいんじゃないかな、あの二人。』
『オレも今そう思った。』
答えたのは五右衛門だ。
『自分ちでやればいいんじゃねーか、ベタベタベタベタと。』
二人は同時に深いため息をつく。
幸村たちに見つからないよう、少し離れて居るのだがなんだか馬鹿馬鹿しくなって来た。
『…帰ろうか。』
『おう、なんかもう、いたたまれねー。』
そしてまた同時に踵を返す。と、向こうから駆けて来る町娘が居た。
もちろん、ただの娘でない事は瞬時で分かるほどの脚力だ。
「才蔵?」
訝しげに佐助が目を眇めると、町娘姿の才蔵が息を切らせて訴えた。
「居なくなったんだよ!」
嫌な予感が五右衛門と佐助に走る。
「…だ、れ、が?」
聞かなくても分かってはいるが、一応、問う。

「信玄公だよ!大人しく執務に取り掛かるって言ってたのに…!」


   *******

幸村と姫は、まだ日も高いと言うのに早めの宿を取った。
旅の初日と言う事もあるし、また他の宿泊客が来る前の綺麗な湯殿でなければ
姫を入浴などさせられない、と幸村が主張したからである。

「結局、町から出ませんでしたね。」
旅支度を解きながら姫が面白そうに笑う。
「私はどこでも良いのですけれど。」
それは勿論、幸村とて同じ事。
二人きりの世界があれば、それだけで良いのだ。
拘束されない、誰も知る顔のない場所で、二人で。
「…姫。」
幸村が膝をつき、後ろからそっと姫を抱きしめた。
「幸村…。」
それに抗うでもなく、姫が頬を染める。
「…まだ明るいですから…。」
けれども言葉で咎めるように。
「そんな事、駄目な理由にはなりません…。」
幸村が背後から顔を近づけ、姫に口付けしようとした時
廊下をバタバタギシギシときしませて歩く音がした。
城下町の外れ、割り合いに大きな旅籠ともなればすでに客も入っているのだろう。
幸村はそんな気配に
「これは風呂を急がねば…姫、参りましょう。」
と、たった今自分が遣り掛けた所業を忘れて立ち上がった。


『居たか?』
『いや、このあたりには居ないぞ。』
佐助と五右衛門は幸村たちの居る旅籠の前で落ち合うと顔と顔を付き合わせた。
『あーもう、何考えてるんだかなぁ、信玄は。』
五右衛門がカリカリと頭を掻きながら眉を下げる。
『必ず二人を追ってここに来るはず…。』
そこまで言って佐助ははた、と言葉を止めた。
五右衛門も思うところがあり、佐助を凝視する。
そして同時に言った。

「俺たち、なんでこんな事やってるんだ?」

『お前、姫が幸村様とどうこうするの、見たくないんだろ?』
『そう言うお前だって、でれでれした幸村なんか見たくねーだろ?』
互いにうんうん、と頷く。
『全ては信玄が悪いんだけどよ。』
『そうだ、信玄が悪い。でも信玄は後悔して、幸村様たちの邪魔するつもりだ。』
『…だったら…。』

何も、信玄を探しだし無理矢理連れ帰る必要はないのではないか。
いやむしろ、邪魔するのを応援した方が自分達の理に適ってるのでは。

二人は互いの目と目を見交わした。だが
キラリと光ったのはほんの一瞬で、たちまち輝きを失ってしまう。

「…嬉しそうに出かけたんだよなぁ…。」
「…そうなんだよな。」
結局、二人は自分の主が好きなのだ。
好きなれば、幸せを願うのは当然。
けれども少々無理矢理納得する感もあるが、守るべきものはなんであるか。
二人はううむ、と腕組みして考え込んだ。

「なんか真剣なところ悪いけどさ。」
そこへ才蔵が本来の格好に戻って現れた。
「新婚さん、お風呂入ってるよ。」
「な な なーにぃぃぃ!!」
佐助と五右衛門がまた、同時に叫んだ。
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