新婚さん

□新婚旅行に行こう!A
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☆新婚旅行に行こう!から続いています。
…二人きりと思っていたのに、どうやら色々な目があると気づいた幸村、それらを撒きました…






躑躅ヶ崎館の朝は早い。
深まる秋のひんやりとした空気が、朝の光でまた生まれ変わったかのように澄んでいる。

そんな、さわやかなひとときに。


「どこにもおらなんだだとぉぉ!?」

低く、唸るような声が響いたのは信玄の部屋である。
廊下に膝をついた透波が、は、と短く答えた。

「むむう、あの宿から居なくなったと思ったら行方をくらましおったか。
流石は幸村、我の気配を感じたのかのう。」

「暢気な事言ってていいのかよ?街道を通過してねーんだぜ?姫連れだから
安全な道を行くはずなのに。」
「どういう事だ?」

透波の後ろに立ち、不遜にも腕組みして佐助が言うと、信玄が眉を上げた。

「だから!甲斐の宝!アンタの右腕!天下無双の武神が行方不明なんだよ!?」

佐助が叫んでも、信玄はふふ、と軽く笑い
「あやつが心配か?どんな危険もなかろう、あの腕があれば。」
と受け流す。その台詞に益々佐助が苛立つのも承知で。
「もういい、俺が勝手に探す!」
佐助が吐き捨てるように言うとその背に
「見つけたら報せるのだぞ。また我も追うゆえ。」
信玄の声がかかったが、
「アンタは政務を片付けてろよ!」
つれない返事が返って来た。

「ふふ…。」
信玄は余裕の笑みを浮かべている。
その手には、早朝届けられた書簡があったが、誰も気づかなかった。

  ******

その頃幸村と姫は進路を変えていた。

駿河ではなく、越後へと。

途中で手に入れた馬に二人して乗り、疾走するでなくゆるりと、しかし確実に進んでいた。

「急に行き先を変えて大丈夫なのですか?駿河に逗留する手配をしていたのでは?」
「ぬかりはありません、越後には連絡しましたので関所も通過出来ますでしょう。
駿河の海に比べて越後の海は荒々しく猛るのだそうです。打ち付けるような波の音を聞きながら
誰にも邪魔されず姫と…あ、いや…別に変な意味では…苦っ。」
姫を背後から抱く形で馬を操る幸村が口ごもると
「邪魔?」
姫が聞きとがめたが答えはなかった。

馬の歩に合わせて二人が揺れる。
姫の柔らかい体はすっぽりと幸村に包まれて、顔は見交わせなくても互いを密に感じる。
「姫…。」
幸村が手綱を握る腕を狭めて、頭を下げると姫の耳に唇を寄せた。
慌てて姫が体をよじる。
「ゆ、幸村…!馬から落ちてしまいます。」
「大丈夫、俺が掴まえていますから。」
そう言いながら、幸村がもう一度唇で姫の耳元に触れようとした時、
「…連絡…?越後に、と言いましたか?」
姫が聞いた。
「はい。関所通過に便宜を図って欲しいと…。」
「…兼続様に、ですね?」
「はい。良く分かりましたね?」
幸村の目に、姫がゆっくりと手を上げるのが見えた。
その白い指が指し示した方向を見ると…。


「おおおーーい!!幸村殿ーー!姫様ー!」

数十人の供の先頭に立ち、嬉しそうに両手を振っている兼続が居た。
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