新婚さん

□新婚旅行に行こう!C
1ページ/6ページ

幸村と姫は、旅に出た。
それは甘い甘い新婚旅行。

なかなか思う様な旅にはならなかったが、それはそれで楽しくもあり
もちろんどこに居ても二人ならば幸せ。

そう、どんなところでも。


そう思っていたが。




「…しかしこれは…。」

幸村は真剣な顔であてがわれた部屋をぐるりと見回した。
そこは畳十帖ほどの広さはあるものの、明り取りの窓がひとつあるだけで
三方は厚い土壁、入り口でもあった残りの部分は格子状の木枠がはめられた、文字通り座敷牢だった。

「このような場所に姫様を通すとはなんと無礼な…!」
ぎゅっと拳を握り締める。



「私ならば大丈夫ですよ、幸村。」

その手にそっと触れて、姫が微笑んだ。

「幸村と共に居るのですから。きっとその内誤解が解けて出してくれるでしょう。」

…誤解。

幸村は姫の方に向き直り、冷たい手を握り返した。

…誤解なのだろうか?それで我々はこんな場所に入れられたのか?

「でもちょっと寒いですね…。」
幸村が考えている事など気づきもせずに、姫がゆっくりと幸村に体を預けた。
そして、ほらこうすると暖かい…とぎゅっとしがみつく仕草に、思わず幸村も抱き返した。

散々辛い目にあったからか、それとも元々の性質なのか。
穏やかで、たいていの事は甘受する姫に、幸村は感謝している。
この部屋に入れと言われて殺気立った自分を止めたのも姫だったし、
こういう時に慌てふためいて騒がれては考える事すら難しい。


大勢の見張りがついているが、幸村だけならばここから抜ける事は容易い事だろう。
けれど相手の思惑もわからず、また姫を連れてこの状況を打開するのは至難の業と思われた。

なぜならここは、四方を海に囲まれた佐渡なのだから。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ