新婚さん

□新婚旅行に行こう!D
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☆前回の越後を書いていたのが晩秋でして、その続きですので
季節感がずれてますがご容赦下さいませ!
…まさかこんなに続くとは思わなかったんです…




夜のうちに降った雪は、積もるほどではなかったようだ。
彩りもすっかり失ってしまった城の庭は、それはそれで侘びた佇まいを見せており
濡れそぼった木の枝たちがその寒さを募らせる。

きちんと身なりを整え、廊下に立って庭を眺めていた小十郎はこの張り詰めたような空気が好きだった。
乱れる事を許さない、ぴんと背筋を伸ばすのが必然のような冷たい大気を胸いっぱいに吸い込んで、
やがて訪れる厳しい冬に備えなければ、と早朝から気持ちも新たにする。

静かで、それでいて心地良い緊張感溢れる日常的な朝。

いつものようにそれを迎えていた小十郎の耳に、なにやら慌しい物音が響いてきたのはそんな時だった。

小十郎の眉間に皺が寄る。
それはきっと、この数日執務を放り出して出かけていた主君が戻って来たと言う知らせだろう。

たまにある事だが、今は平時とは言え一国の主が取る行動ではない。
今度と言う今度は厳しく指導せねば、と騒ぎの方へと足を向けた。


そして 見たのだ。

寒い中を馬で走り抜けて来たらしい、顔を赤く染めた主君が誇らしげに抱きかかえているものを。


      **********


「奥州?」

一瞬、呆れたような声が出てしまったのは仕方がない。
信玄は、佐渡を出た幸村一行がいつ戻るのかと心待ちにしていたのだから。

「奥州と言うとあの奥州かの?」

「なに急にボケたふりしてるんですか!もう流石にツッコんでる場合ではないですよ、奥州は奥州、伊達政宗が姫様を拉致したんですよ!」

才蔵が佐助からの書簡を突き出すように見せながら言った。

「幸村様と佐助はすでに追って奥州に入ってるようです。十勇士たちも五右衛門と共にこれから行かせます。」

流れるように才蔵が続けるのを、信玄は部屋の入り口に立ったままでううむ…と唸ったっきり黙りこんだ。
それを見上げて、一応は膝をついていた才蔵も立ち上がりピッと人差し指で信玄を指した。

「兵を出すのは駄目ですからね!勿論、お館様自らが奥州に行くのも!」

図星をつかれて、思わず片目を大きく開いた信玄だが、そんな事で引くわけもない。

「相手があの若造じゃあ、熱くなった幸村とぶつかるばかりであろう。十勇士は行かずとも良い。我が行って穏便に収めて来よう。」

「だから、それが困るんですよお館様。主同士がぶつかっちゃ同盟が危ういでしょうが。とにかく、佐助からも言われてるし、大人しくしてて下さいよ。」

そのせいで俺お留守番だしーとため息をついた瞬間、いつになく素早い動作で歩み寄った信玄は才蔵の手から書簡をもぎ取った。

「あ、ちょ、見ちゃ駄目!」

信玄の目が佐助の文字を追い、眉と目がつり上がる。

『姫政宗に拉致された 
幸村様と追う
応援頼む

でも信玄来させるな邪魔
死んでも止めろ』

何とも簡潔で清々しさすら感じる文だが、最後の部分に信玄が黙っているはずもない。

「佐助め…。甲斐の虎を邪魔と一言で切り捨ておったな。ふふ…後悔させてやろう。そもそも幸村と佐助がついていながら何故姫が連れ去られたのだ。
ここは絶対追求せねばならぬ。」

にやりと笑って顎をさする信玄の仕草に、才蔵が頭を抱えた。

「えー、俺『死んでも止めろ』って言われてんだけど。」
「『死んでも止める』つもりでついて来れば良いであろう。」
「また甲斐を留守にすんですか!?」
「我がおらぬくらいで揺るぎはせぬ!行くぞ!」
「ちょ それ お館様居ても居なくてもどーでもいい発言?ああ待ってお館様ー!」

風の如く、とばかりに支度を始めた信玄を追って才蔵も走り出した。
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