薄赤い妄想綴り

□夢幻の闇
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そこは隠し部屋らしく、明り取りの小さな窓がひとつ、天井近くにあるだけで
月の光も差さず頼りは小さな蝋燭だけだった。

けれど、そんな事は今の幸村にはどうでも良かった。
決死の覚悟で単騎突入し無我夢中で敵をなぎ倒し
無事姫を敵城から救い出したのだから。
確かに、今姫は腕の中に居るのだから。

「…お怪我はありませんか。」

ようやく目が慣れてきて、幸村が言うと
姫は自分がこの部屋に来るまでそうしていたように
ずっと幸村にしがみついたままだという事に気づいた。
「…え、ええ…大丈夫…。」
幸村も姫を抱きしめた格好のままだ。
「幸村こそ…。」
姫は少し身体を動かして幸村の顔を見上げようとした。
いつもなら、こんな風に無意識にでも密着しているのに気づけば
慌てて離れるのに、今は違うようだ。
姫が見上げると、幸村の顔はすぐ近くにあった。
「あ…。」
まるでそれが自然であるかのように
幸村が少し身を縮めた。
そしてそっと、押し当てるかのように唇を重ねた。
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