薄赤い妄想綴り

□前夜
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再び川中島への出陣は、明日の早朝と決まった。
幸村が出立の準備を整えた上で姫に一時の暇乞いに訪れたのはもう、すっかり日も落ちた頃だった。

「くれぐれも気をつけて…ご武運をお祈りします。」
姫はたくさん言いたい事があるのを抑えてそれだけ言うと正面に正座した幸村から目をそらした。

「ありがとうございます、姫。」
そんな姫に一礼して座位のまま近寄ると
幸村は顔を覗き込んだ。
「ご心配には及びません、すぐに姫の元へ戻ります。
必ずや武功をたて…。」
「武功など…!」
姫が急に顔を幸村に向けて、
そのまま飛び掛るようにすがりついた。
「武功などより、無事に帰って来てくれる方が…!」
「姫…。」
幸村は普段と違う姫の様子に驚いたが、
姫はすぐに我に返って両手を幸村の襟元から離した。

「…ごめんなさい、武家の娘でありながら…。」
それでも大切な人を失う恐怖はもう二度と味わいたくない。
でも出陣の前夜、気を引き締める重要な時間にこんな事言って…と姫の思考はグルグルまわる。

「ご心配は無用です、姫。」
そんな心中を察したか、幸村が手を伸ばして姫を抱きしめた。
「姫が城で待っていらっしゃるのに拙者が
戻らぬわけがありません。」
そして泣きそうな顔の姫に口付けた。

「…ん…。」

初めは柔らかく吸い付きながら、やがて
幸村は熱い舌を姫の唇の中へと差し入れる。
そしてゆっくりと姫の舌と絡み合い、口蓋を舐めた。

「…ぁ…。」

姫の身体が小さく震えて、吐息が漏れる。

「…出陣のはなむけをいただきます…。」

幸村が身体を離した。
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