薄赤い妄想綴り

□『嫌』
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「…ああ…っ。」

姫の細い腕が、虚しく空を舞う。
そしてそれはそのまま乱れた褥(しとね)へと落ち、指がぎゅっと薄布にすがる。

明かりを落とした頼りない暗さの中にその白い身体をうつ伏せて、耐える。

「…っ!」

その細腰を、後ろから支え持つような形だった幸村の両手に力がこもる。
身体の奥底まで達したかと思うと引かれ、また貫かれる。
その動きが激しさを増し、姫はついに声をあげた。

「…い…嫌…!幸村…!」

姫の両手は、幸村を欲していた。
戦から帰っての久しぶりの逢瀬。
確かに今、ひとつにはなっているけれどこの手で幸村に触れたい。
すがりつきたい、抱きしめたい。

「お…お願い…っ。」

けれど、哀願のつもりの小さな言葉は湧き出すような熱情に流されそうな幸村には届かない。

「…嫌ぁ…っ!!」

ついには、頂点に達した幸村が激しく熱を迸らせた。
深く息を吐き、そのまま重なるように抱きしめられると、肩が震えた。

「…姫…?」
幸村がやっと我に返ったかのように呼んだ。
「姫、な…泣いておられるのですか…!?」
たった今まで、互いの想いを確かめていたつもりだった幸村が慌てて身体を離し、
姫を抱き起こす。
輪郭さえはっきり見えない闇の中、涙が光るのは分からずとも姫が自分を見ようとせずに
少し俯いてクスン、と鼻を押えたところで、先ほどの最後の言葉を思い出した。

「…そ、そんなに…。」
『嫌』だったとは。こう言う時の『嫌』は平常時の『嫌』ではないのだと、
身をもって理解したと思っていたのに…。
幸村は自分が否定されたかと、ほんの一瞬前に居た天国から一気に地獄へと叩き落された気分になった。

けれど、すぅっと細い腕が伸びて来て、幸村の肩に触れた。
そしてそれはそのまま背中に回り、柔らかな肌が押し付けられるように幸村を包み込む。

「姫…。」
「抱いて下さい…。」

戸惑う幸村の耳元で、姫が囁く。
言いながら、ぎゅっと自らしがみつく。

幸村はやっと、少しだけ理解した。
『嫌』なのは自分ではない、と。

幸村の腕が、裸のままの姫を抱きしめた。
それが合図かのように姫が幸村の肩から顔を離すと、どちらからともなく唇を重ねた。

二人の夜は、これから。


'10'01'23

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