薄赤い妄想綴り

□どきり
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その赤い色は、幸村の好む椿のようだ、と姫は思った。

今届いたばかりのその着物に手を通して、姫は細帯を自分で結んだ。


新しい着物は、やはりとても嬉しい。
季節が少しづつ変わるのを敏感に感じて、こうして気遣ってくれる幸村に心から感謝したいと思っている。

「…感謝…。」

ふと口にしてみて、姫は良い思いつきをしたとばかりに一人でにっこり笑った。
鍛練も終った時分だし、新しい着物姿を見せてお礼を言おう。

そう思ったのだ。

    ***********

奥まった自室から出て、長い廊下を歩いて行く。
暖かな春の日差しは、太陽が傾きかけてもまだ穏やかに屋敷中を包んでいる。
御殿では執務に忙しい者達も居るのだろうが、このあたりは静かで皆は午睡でもしているのかと思えるほどだ。

そんなのんびりした雰囲気の中を抜けると、鍛練場へと繋がる。

ひとしきり槍を振るった幸村は、外にある井戸の傍に居た。
細紐の端を咥え、器用にくるりとたすきがけにすると、縛ってあった髪をばらりと解いた。

端整な顔に汗が光り、細い髪がかかる。
それを無造作にかき上げ、水を汲んだ桶から布を取り出してぎゅっと絞る。
むき出しになった上腕の意外なほどの力強さと、肘から下のまだ青年の途上にある筋肉が無駄なく動く。


姫がやって来たのはそんな場面だった。

普段はきちんとした佇まいの幸村が、長い髪を乱したままのびやかな腕を上げて首筋を拭っている。

心臓がどきり、と大きな音をたてた。

姫は思わず自分の胸のあたりを押さえて、もう片方の手を赤くなる頬に添えた。
その視線はまっすぐに幸村に向いていて、体と同じように動けなくなっていた。

なにも特別な事をしているわけではない。
それなのに何故か、何気ないその姿が姫の鼓動を早くした。
手伝いましょうか、と声をかけたいのに言葉が出ない。

と、視線を感じたのか幸村が姫を見つけた。

「姫様!」

そして屈託のない笑顔を向けた。が

姫は自分でもどうしたのか分からないまま、くるりと背を向けると慌てて走り出した。

何故だか、見てはいけなかったような気がした。

後ろで幸村が驚いて再び名を呼んだが、赤らんでいる頬を見られたくない。

けれど、いきなり走り出して止まらない姫を幸村が追いかけぬはずもない。

「姫様!どうなさったのです!」

幸村はすぐに追いついて、姫の腕を取った。

「離して下さい、ご…ごめんなさい。」
どうして謝るのか自分でも分からなかったが、姫は顔を見るのも恥ずかしくてそむけたままだ。
だから
「どうして謝るのです、いったい何があったのですか。」
そう幸村が問うのもしごく尤もだった。

「…。」
自分の方へと向き直され、それでも俯いていると、どうしても幸村の張り詰めた腕が目の前にある。
そしてちらりと見上げた顔には、長くかかる乱れた髪が。

姫は自分の心臓の音が幸村にも聞こえてしまうのではと思った。
見慣れているはずの幸村なのに、その姿に鼓動が早まるのが抑えられない。

頬が真っ赤になって、大きな黒い瞳は泣きそうに潤んでいる。

その煽情的な表情は、こう言う事にだけは疎い幸村にでさえ届いた。

「…姫様、どうして…そのような…。」
言いながら近づける唇は、待ちかねたように受け入れられた。



   ****************


誰も人の来ない、ひっそりとした奥庭の木陰。
強く抱き締めながら、幸村は姫の熱い舌を自分の舌で追い、絡める。

「…んん…。」

強く吸われて、息も出来ずに姫が喉の奥で訴える。
けれど腕は幸村の背に回ったままで、ぎゅっとしがみつくような仕草が煽る。

「…いったい…。」

幸村は、どうしたのです、と繰り返しそうな唇を姫の頬から首筋へと這わせた。
まだ明るいこんな時間に、こんな場所で。
姫自身どころか幸村の理性すら飛ばしてしまう、何があったと言うのか。

「…ああ…ん…っ」

けれど、襟元から滑り込ませた右手が柔らかな膨らみを包み、すでに固くなった先端ごと揉みしだくと甘やかな声が漏れ出して、そんな事はどうでも良くなる。

ふと、幸村は真新しい姫の着物が自分の贈った物だと気が付いた。

一瞬それは、まるで自分そのものが姫を包み込んでいるかのような錯覚を覚え、言いようの無い熱い感情がふつふつと湧いてくる。
いつも大切に大切に想っている姫を、自分が、自分で、高みから下ろしてしまいたい、と。

幸村は、姫を強引に木の幹へと押し付けると有無を言わさず着物の裾を持ち上げた。
そしてぐいと膝で姫の両足を割ると張り詰めた己を取り出して、両手で姫の双丘を包むようにすると一気に持ち上げた。

「…ああっ!」

姫の戸惑いはほんの始まりで、持ち上げられた身体は密着し、狙い通りに幸村を飲み込んで行く。

溢れるほどに潤っていたそこは、苦も無く幸村を受け入れたが、背中を幹に預け両足を半ば浮かせた状態で沈められた高まりは
姫の一番奥の部分に届いていた。

「…!」

幸村が動くと、まるで見知らぬ生き物がまだまだ奥へと入り込もうとしているかのごとく感じられる。

「…あ…ああ…っい、いや…!」
突き上げるような痛みに、姫が首を振るが幸村は許さなかった。
それどころか、吐息を漏らすのも諌めるかのように、姫を支えるのを右手に任せ、左手は姫の頭が幹に当たらぬように副えるとともに固定してその唇を再び貪った。

いや、と言おうとした唇からはもう、言葉は出せない。
幸村の舌が惑う姫を追い求め、捕らえてなぞる。

密着するが故に、律動は小さいが奥まった部分を存分にいたぶる感覚は幸村の脳髄を麻痺させる。
そしてまるでその箇所は姫の意思などどうでも良いかのように幸村を逃がすまいと締め付けて来る。

…熱い…。

二人は、互いの身体が立ったまま溶け出して混ざり合いながら流れていくのを感じた。


穏やかな、春の夕刻。
乱れた髪は、その日二度とは結ばれなかった。



'10'04'26








…申し訳ない…(平伏)

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