捧げ物
□繋ぐ想い
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** 一万打を踏んで下さった敬さんのリクエストで
"「恋の散歩道」仕様で繋いだ手を朝まで離さないとしたら、そして姫様に看病が必要になったら"
(本当はもっとちゃんとしたリクエストなんですが、歪曲しました/笑)
…です。 さてどうなりますか… **
☆「恋の散歩道」未遊戯のお方は、ネタバレ含むかも知れませんのでご注意下さい!
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"今度は最初から朝まで御手を繋げられればと思います"
幸村はそこまで一気に書いて筆を置いた。
浮いた話一つない、武芸一筋の若武者である彼が生まれて初めて女子と、
それも心動かされた只一人の相手と逢い引きして来た夜である。
…逢い引き…
それは信玄から贈られた「休日」であり「褒美」であったが
幸村にとっては、確かに逢い引きだった。
姫と二人、手を繋いで街を散歩したのだから。
ただ、それだけ。
信玄などから見ればほんのお子様遊戯ではあるが。
彼にとっては大きな進歩だ。
「…よし、この次はお館様の言われた通りにしよう。」
姫への手紙をしたため終えた幸村は自分に言い聞かせるようにつぶやくと
うん、と頷いた。
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幸村は足取り軽く、姫の部屋へと向かっていた。
翌日の楽しみのために眠れぬ童子のように、昨夜はほとんど寝ていないが
気分は上々、空は快晴、絶好の散歩日和である。
そう、今日は姫と再び散歩する約束の日である。
「それでは明日、お迎えに参ります。」
「はい、お待ちしております。」
と昨夕別れの際に確認までした堅実な散歩だ。
今日は前回紹介しきれなかった城下町を廻ろうとちゃんと計画書まで作って来た。
「まずは朝市を覗いて、それから寺社を巡ってお昼はお気に召した蝗屋で…。」
懐からその書を取り出して見る。
「うむ。」
そして納得したかのように頷くと、幸村は廊下に膝をついた。
「姫、幸村でございます。」
開け放した障子の向こうを見ないように一礼して声をかける。
そこはもう、姫の部屋の前だった。
「…はい、どうぞ。」
幸村の胸がドキリと鳴る。
控えめな返事に顔をあげて見ると、姫もすでに薄紅色の着物に着替えていた。
それは勿論、幸村が贈った着物で姫の恥らったような桃色の顔に良く映える。
その、よりいっそうの美しさに思わず見とれてしまいそうになった幸村は
自分も顔を赤くしながら、手を差し伸べた。
「…よろしいでしょうか。」
…御手を、繋いでも…。
そこまで言わなくても、姫はちゃんと理解して自らも手を伸ばした。
ゆっくりと、そぅっと。
そしてその白い手が自分の指先に触れると、幸村は思い切ってぎゅっと握り締めた。
今日一日、ずっと離さないと言う固い誓いの元に。
が
「…?」
幸村はぎゅっと握ったものの、戸惑ってしまった。
その御手が異常に熱いのだ。
慌てて姫の顔を見直すと、ほんのりと染まった頬は発熱のためにも見える。
「姫、もしやお加減でも悪いのでは?」
「…え…?」
言われて驚いた顔の姫は繋いでない方の手で自分の頬に触れた。
「そう言えばフラフラしますけれど…昨夜あまり寝ていないのでそのせいかと…。」
そして笑おうとして眩暈を起こした。
「姫?姫!」
耳元で呼ぶ、幸村の声が遠くなって行くのを感じながら。