捧げ物

□ただ想うは笑顔
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☆17000打を踏んで下さった燈月さまからのリクエストで
「幸村に贈り物をする姫」です。
  燈月さま、ありがとうございます♪☆





    *********


朝からずっと降り続けている雨は、午後になっても止む気配を見せず
決して激しくはないものの、躑躅ヶ崎館を静かな水の底へと導くかに思えた。
冷たい雨は今日一日ずっと部屋の中で過ごす事を強要したが、
姫の心はほんのりと暖かい。

それは

細く白い指をかざしている、火鉢のおかげだ。

そろそろ冷えますからと幸村が用意してくれたそれは、外側に朱塗りを施されたもので
それ以外は装飾はないものだが手をかざせばじんわりと熱い。
(まるで幸村みたい)
そう考えて、姫はクス、と小さく笑った。
何事にも全力であたる彼の熱さには、これから迎える季節の憂いなど無いかに思える。
日々精進と自分に厳しく鍛練と執務に忙しい身でありながら、常に自分を気遣ってくれる。
(いつもいつも…)
自分の事は後回しで。
姫はふと、顔を上げた。

    **********

「そんなもん、オレにわかるかよ。」
火鉢を挟んで、姫と向かいに座った五右衛門が渋い顔をした。
「そ、そうだよね…。」
「なんでいきなり、幸村が欲しいもの、とか知りたいんだよ?」
「それは…。」
姫はちょっと頬を染めて五右衛門から視線をそらした。
いつも好意を受け取ってばかりの自分に気づいた姫は、何かお返しが
出来ないかと考えたのだ。
今まで殿方に贈り物などした事もなく、また命だけを持って落ち延びて来た身であれば
手持ちも少なく、難しい問題ではあるのだが。
「…まあ、どうしてもってんなら、それとなく調べてやるけどよ。」
姫の様子に居心地悪くなった五右衛門は不満そうではあったがそう告げて立ち上がった。
「無理、しないでね。」
恥ずかしそうに顔を上げた姫に、おう、と応えながらも五右衛門はカリカリと頭を掻いた。

   
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