捧げ物

□緋色の想い
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☆33333打を踏んで下さった愛音さまのリクエストで『お館様と十勇士』です。
愛音さま、ありがとうございます!☆





※微妙に番外「真田十勇士」のネタバレも含んでおりますのでご注意下さい※







ようやく蕾を膨らませ始めた桜の木々が、未だ寒そうに木肌をさらし
緑少な目の季節柄、常緑樹の潅木群が目を慰めてくれている。
そんな躑躅ヶ崎館の中庭に、ぽつんと立っている若武者ひとり。

「どうした、幸村。お前は行かぬのか?」
そこへ通りかかった信玄が縁廊下から声を掛けると、所存なさげな表情で振り向いたものの
「いえ、俺はどうもああ言う事は苦手ですから。」
と即答した。
それならば何か他にする事もあるだろうに、ここで考え事とはやはり気になるのだろう?
と信玄は思ったが口に出すのはやめた。

「別に姫が裸になるわけでもあるまいに。まあ、お前が見立ててはまた、
いつもと同じようなものになるからのう。ではそこで一人悶々としておれ。」
「…苦っ、お館様…!」
『裸』と言う言葉か『いつもと同じ』か、はたまた『悶々』か、どれに反応したか
幸村が赤くなりながら眉を上げたが、信玄はもう手をあげて背中を向けていた。

「俺はいつも、姫様にお似合いだと思って選んでいるだけです!」
と言う幸村の台詞は捨て置いて、信玄はぐるりと縁廊下をまわり姫の部屋に近づいた。
と、開け放たれた障子の向こうから、嬌声が聞こえる。


「これは?ねぇこれなんか姫様に似合うんじゃない?」
「そ…そうでしょうか…。」
「絶対似合うって!ほらほら当てて見て!」
信玄が覗き見ると、部屋中に綺麗な反物が広げられ、才蔵らしい娘が
派手な黄色の反物を勧めていた。
「たまには違う色目も良いでしょ、山吹、似合うと思うけど。」
「あたしはこっちの躑躅かなー。」
すると、別の娘が萌黄色と蘇芳色の二つを示した。
「そんなら、わたしはこの藤の模様がいいわ。」
続いて他の娘も。
数えると、姫を入れて丁度十人の娘がそれぞれ反物を自分に当てたり
あんたにはこれ、と決め付けたりしている。
どの娘たちも驚くほどの美人であるが、勿論、どう言う者たちかは信玄も承知だ。
「ううむ、豪華絢爛と言いたいがのう。」
苦笑しながら信玄が部屋に入り、反物を踏まぬように進むと
姫が無理矢理肩から下げられていた黄色の反物ごとお辞儀した。
「信玄様…今日はありがとうございます。」

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