新婚さん

□新婚さんいらっしゃい 4
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幸村が口に運んだ杯を止めた。
「…ま、満足…?」
それは考える余裕もない事だったのだ。
頭の中でその一言が何度もこだまする。
「あーあーもう、伊達くんは酒癖が悪いのう。」
不敵な笑みを浮かべる隣席の男をチラリと見て信玄がため息をついた。
「だいたい信玄公の臣下でありながら初心などと笑止千万。
教育がなっとらんのではないか?」
そのため息に反応して今度は矛先を変えた政宗は再び銚子を取り戻し
自分の杯を満たすとぐいっと一気に飲んだ。
「うむ、そうよの。幸村、我の秘蔵の書物いつでも貸し出す故…。」

杯を口元で止めたままの幸村に信玄が言いかけた時、
廊下を歩いてくる足音がした。

「さあ、肴も用意できましたよ。」
三人がギョッとしたが、会話は聞こえなかったらしく姫が入って来て膳を整えた。
「姫、幸せか?」
そこへいきなり政宗が問う。
信玄があーもう知らんと言う顔をする。
そして幸村は固まったまま。

「はい。」
姫の返事は早かった。
その早さがますます政宗の悪酔いを加速させた。
「満足してるのか?」
「はい。」
「えっ。」
最後は幸村で、やっと杯を下げた。勿論姫は何に対して満足かと
質問されたのかは分かってはいない。
だが政宗はムッとし、信玄はホー、と感心し幸村は赤くなる。
「それは、女としてか?」
政宗が核心をついて来た。
けれど姫は頬を染めつつ、また政宗に酌をしながらきっぱりと言い放った。
「女子として想う方と結ばれる事は最高の幸せでございましょう。」

この戦乱の世に、一国の姫として生まれたからには国策として他国に嫁するは運命。
それなのに自分は自らの意思で愛する人の元に居られる。
それが幸せでなくてなんだろう?
姫の正直な気持ちはこうだった。



三人の男達には微妙に違って聞こえたようだ。

「ひ…、姫。俺は…!」
決して酒のせいではなく幸村が顔を真っ赤にして姫の手を取った。
「嬉しゅうございます、もっと…もっと精進致します!」
見詰め合う瞳と瞳には、互いしか映っていない。

「何だかよけいにくっつけたみたいで気分悪いぞ。」
そんな二人を前に政宗が苦々しく言う。
「うーむ、あまり見せ付けるな、幸村。独り身が身にしみるわ。」
信玄の言葉も二人の耳に入る様子も無く。

やっぱりそれからしばらく新婚さんちに遊びに来る者はいなかったと言う…。



'09'07
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