新婚さん

□新婚旅行に行こう!@
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大きな旅籠、とは言え大名あたりが逗留するほどのものでもなく
その湯場は離れにあって、二三人も入れば満杯、と言う大きさだった。
その入り口に正座して座り、入浴しに来た客を睨んで追い返しているのは幸村だ。

『なぁんだ…姫一人で入ってんのか。』
『幸村様、見張り番かよぅ…いいのかそれで。』
庭の潅木に身を潜めた忍びが呟く。
『あれ?才蔵は?』
ふと気づくと、才蔵が居ない。
そう言えばここに来る前にはもう居なかったような…。
佐助はハッとして才蔵が町娘の変化を解いていたのを思い出した。
あれは好んで娘に変化する。城下町に居るなら嬉々としてその姿を保つはずだ。
それなれば、なぜ…?
(まさか…。)
佐助は五右衛門の腕を掴んだ。
『な、何だよ?』
『いいから、来い!』

「!」
幸村が不穏な気配を感じて庭の潅木に視線を走らせた時、そこには誰の姿もなかった。
「…また才蔵かと思ったが…気のせいか?」
そしてキッと睨む視線を強め、回りを見回すとまた、正座した。

   ********

「いやぁ、町娘なら怪しまれないかなーと旅籠に入り込んだらさぁ。」
才蔵が甘味屋で餅を食べながらカラカラと笑った。
「廊下で幸村様に腕掴まれちゃって。"何をしている"って。流石にバレてたわ。」
「…で、お前なんて答えたんだよ。」
佐助と五右衛門が身を乗り出した。
甘味処に大の男が三人、餅やだんごを前にしていれば十分怪しいのだがそれは気にしていない。
「え、そりゃまさか幸村様たちを追っかけてますーなんて言えないでしょ。」
二人がふぅー、と息を吐いて座りなおす。
「で、信玄公探してるとも言えないし。だからつい。」
才蔵が最後の餅を、そこで口に放り込んだので二人はしばらく黙って待たねばならなかった。

「つい、言っちゃったんだよねぇ。"霧隠才蔵、幸村様のお供仕りたく候"って。」


   *******

「あ、あの…?」
姫は戸惑っていた。
陽も落ちぬ前に夕餉を済ませたと思ったら、早々に床を延べさせ、
さあ寝ましょう今寝ましょうと言われたのだ。
いくらなんでも、そんなあからさまな…と頬が染まるのを止められない。
けれど幸村は意外な事を言った。
「今夜は御手を頂き、眠りとうございます。明日は早く出立致しましょう。さ、姫。」
手だけ繋いで…?
姫は自分の勘違いに消えてしまいたいほど恥ずかしくなり、幸村が差し出す手も握れなかった。
が、先に床に入って隣へと促す幸村がずっと布団を捲って待っているので
泣きたくなるほど恥じ入りながら従った。
それを優しく抱きしめて、本心はもちろん手だけではないのだと言いたかったがそれもやめて
「本当に、二人きりになりましたら…ゆっくりと。」
とだけ言った。
姫が何か問いたげな表情を向け、それを宥めるように瞼に口付けてお休みなさい、と告げる。

暖かな姫の体温を腕の中に感じながら幸村は、穏やかな顔ながらも頭の中では忙しく考えていた。
…才蔵は一人ではあるまい。
流石に心通じた主従、他にも居るのは感じている。

供など要らぬ、それだけは絶対に!

だから、明日はまだ明けきらぬうちにここを出るのだ、と。


けれど幸村はまだまだ甘い。
大事な人物を忘れていた。


「ううむぅ…やけに静かじゃのう。」
隣の部屋で一人、杯を傾けながら聞き耳たてている、その人を。




'11'30

うーんうーん なかなか甲斐どころか城下町すら出ません。
これ旅?旅なの?(笑)
人物崩壊が酷くて申し訳ありません…。

でもまだ続きます。多分。
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