新婚さん

□新婚旅行に行こう!A
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これは新婚旅行なんだ。
新婚旅行。
俺と姫の。

幸村は心の中で何度も呟いていた。
そして、お館様や佐助たちを撒くために行き先を変え、しかも兼続に連絡した自分の甘さを呪った。

兼続殿は義に厚いお方。
客を素通りなどさせぬとなぜ、思い至らなかった…。

幸村と姫は、兼続と共に謙信の城へと向かっているのだ。

「越後にご旅行とは、お目が高い!越後は良い所にございます。
まだ雪の降らぬ季節で良かった、小生があちこちご案内致しますぞ!」
上機嫌で笑いながら言う兼続に、幸村はどう遠慮していいものか考えあぐねていたが
ちらりと見た姫の顔がさほど困っているようには見えないのでとりあえず、
謙信に挨拶だけはしようと決めた。
その決心の間にも兼続は
「今宵は歓迎の宴をご用意しております!お二人のお口に合うかはわかりませんが
越後の美味なる物の数々、是非ともご賞味下さい!」
屈託ない笑みで話しかけるこの従者にはこの旅の意味などどうでも良いようである。
ただ客人を喜び、もてなそうとしてくれている…
のは分かるのだが。

幸村がああ困った困ったこのままではまた今夜も二人きりにはなれぬ…と泣きそうになっていると
謙信の住まう城が見えてきた。

何とかして、義の武将の心遣いを無駄にせず円満に断れないものか。

「!!」

だが、先を進んで幸村の目に飛び込んで来たのは。

城近くに並ぶ、武田騎馬隊の姿だった。

「あ、そうそう。貴殿の書簡を頂いてすぐに甲斐へもお知らせ致しました。
どうせなら信玄公もご一緒に宴を、と…はて?ゆ、幸村殿?どこへ?」

兼続殿、御免!と一声叫んで幸村は馬上で姫をぐいと強く抱いた。
そして片手で手綱を掴むと思い切り馬の腹を蹴った。

  ********

越後の晩秋はもう、肌寒い。
陽が暮れてしまうとその冷たさは更に増す。

けれどその冷たさを癒すものがここにはあった。
行き当たりばったりに飛び込んだ宿は、湯が自慢だと言った。

暗い庭に建てられた、東屋のような温泉は白い湯を湛えている。
その熱い湯に、並んで入っている二つの影。

「先ほどは突然走り出して申し訳ありませんでした…。」
首までお湯に浸かって幸村が言う。
「…はい、びっくりしました…。」
湯着のままの姫が答えると、幸村は並んで正面を向いていた体を、ザブと湯を撒きちらして姫に向けた。
「で…でも、俺はどうしても、二人っきりになりたかったのです!」
湯船の中で、それも裸で真剣な顔をする幸村に姫はくすくす笑った。
「…可笑しいですか…?」
赤くなりながらの笑みが照れ隠しだと気づかずに聞くと、姫が顔を上げた。
「…私も、です…。」
そしてゆっくりと目を閉じた。

「…姫…。」
幸村の顔が近づいて、そして唇がそっと、姫のそれに触れる。
熱い手が、姫の肩から着物を下ろす。

月明かりだけが頼りの、静かな湯の宿。

越後の夜は熱く。


'12'03

越後…越後ぉ!? 当初、本当に駿河までの珍道中…のはずだったんですが。
距離感とか時空とか、気にしちゃ駄目ですよvと言う見本ですね。

それにしてもなかなか新婚さんらしくなりません。←新婚の定義を三つ答えよ
あんまりなので、温泉でちょっぴり幸せになれるといいなあと。
ええ幸せに!幸せにですよ!(しつこい)
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