新婚さん

□新婚旅行に行こう! B
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「いやいや、まことにお二人は良い時期にいらっしゃった。まもなく越後は本格的な冬を迎え、雪が積もれば出掛けるのにも難儀致す所でございました。」
終始上機嫌で城下町を案内した兼続が更に二人を連れて行きながら、言った。
「如何でございましたかな?我が町は?」
その少し後に続いて歩いていた幸村が、いきなりふられて口ごもる。
この際不満は置いといて、好意に甘えようと大人しくついて来たのだが。
「ええと…。」
「越後上布の織元は大変興味深かったです。京でも評判だと聞きましたし…。」
それを助けるように姫が言うと、兼続は満足そうに大きく頷いて
「それはようございました!あ、そうそうこれを。」
手にしていた包みを差し出した。

ずしりと重いそれを両手で受け取って姫が、何でしょうか?と問おうとすると、
兼続は右手を進行方向に向けた。

「さあ、ここが小生の一番お勧めの場所でございまするぞ!」

さっきから特有の匂いが漂い、立ち並ぶ家々に立てかけてある道具や網が気にはなっていたのだが、
兼続の示す先に広がっていたのは

海だった。

いや、正確には港、である。

「昨夜、信玄公から旅の目的が「海」であるとお聞きしましたので。
あ、今頃はまだ我が殿と飲み比べの最中でしょうから追いかけて来る心配はございませんぞ。」
何でも分かっておりますぞ、と右目をつぶって見せた兼続に、幸村がどう反応したらいいのか戸惑う。
「あ、姫様。先ほどの包みは名物"笹団子"でございますから、道中お召し上がり下さい。」
さあさあ、と先を急がせながら言葉を繋ぐ兼続はとてもにこやかである。
「ど、道中?」
姫が聞きなおそうとしても、答える前に小さな船に導かれた。

「お二人とも、存分に海を満喫なされよ!守護代の本間殿には話して有りますゆえ、佐渡では歓迎されますぞ!」

「え!?」
「さ、佐渡!?」

促されるまま船上の人となった二人が驚愕の声をあげた。

「いってらっしゃいませー!」

岸から両手を大きく振る兼続は、まるで自分が旅に出るかのように楽しげである。


    ********

「…で、そのまま一人で帰って来たのかよ!?」
躑躅ヶ崎館の信玄居室で、佐助がまるで今にも火を噴きそうに顔を真っ赤にしていた。
「仕方あるまい、我までが佐渡に行くわけにもいかんしのう。」
つまらんわい、とそっぽを向いて答える信玄にどんな罵詈雑言を浴びせてやろうかと身を乗り出した佐助だが、
何を言われようが自分を失わないこの国の主に、通じる言葉が見当たらない。

「…ちぃっ!」

そこで思い切り大きく舌打ちすると、何も言わずに背を向けた。

「む、舌打ちだけか?」
こちらも身構えていた分肩透かしを食らって信玄が呟いたが、佐助はもうその場にはいなかった。

「つまらん…はよう帰って来んかのう。」
ため息まじりの台詞は、遠い小島には届きようもなく。



'10'01'17


秋に書き始めたので、季節感がちょっと前ですが。
船酔いして青い顔の幸村妄想して可哀相になりました。 
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