新婚さん
□新婚旅行に行こう!C
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「だいたい佐渡は上杉領じゃねーだろ。なんでそんなとこに行ったんだ。」
「海が荒れればしばらく戻れないし、これは直江の策では?武神の居ぬ間に武田を…。」
「元はと言えばお館様が思いつきで幸村様を旅に出したのが問題であって。」
「あーーもう!煩いわ!お前たち幸村がおらぬとさぼりおって!鍛練せい鍛練!」
十勇士たちがわざわざ部屋の前でしゃべってると、流石に信玄が声を荒げた。
「佐渡の本間は上杉の仲介で本家と分家同士の争いも治まり実質は上杉縁故のようなもんだ。
今頃二人は甲斐では味わえぬ海の幸で存分にもてなされておろう、案ずるな!」
そう言いながらじろりと十勇士たちを見て、その中に佐助の姿がないのに気付くとにやりと笑った。
「まあ、そろそろ戻って来てもらいたいとは思っておるがのう…。」
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代わる代わるやって来ては、格子状の壁から中を覗いて行く家臣たちの意図は稀代な美しさの姫を一目見ようとするものか。
幸村は誰が見せてやるものかと意固地になって座ったまま姫を覆うように抱きしめて背を向けている。
ここは大人しく期を待つと決めたとは言え、何もする事がないと言うのはせっかく二人きりなのに勿体無い。
「申し訳ありません、姫…せっかく佐渡まで来たのに。」
耳元で囁くと、姫が頬を染めて顔を上げた。
そして小さく首を振る。
「平気ですよ。何が起こるのか楽しみなくらいです。」
その答えには少々驚いて、幸村が顔を凝視するとふふふ、と笑う。
「恐くはないのですか?」
「まあ。」
今度は姫が驚いた。
「幸村が一緒なのに、何が恐いと言うのです?」
それは絶大なる信頼。
さてはこの落ち着きぶりは己の成したものかと思うと、幸村は堪らず抱き締める腕の力を強めた。
愛しくて愛しくて、大声で叫びだしそうになる唇を勢い余って姫のそれに重ねた。
「…ん…っ。」
柔らかく、心地良い感触。
鼻の奥から漏れる微かな吐息。
それは全てを忘れてしまえるほどの甘い誘惑であった。
が
突然、背中に咳払いが聞こえた。
ハッとして振り返ると、身なりを整えた男が数人の男たちを従えて困惑顔で立っていた。
「…この状況で、そのような…いや、あっぱれと言うべきか。」
頬は染まったままだが幸村の表情が変わり、後ろに姫を庇いながら立ち上がった。
「本間殿か。このようなもてなしを受ける謂れをきちんと説明して頂こうか。」
鍵が開けられ、中に入って来た男は幸村の前に進むとその顔を見ながら正座してゆっくりと礼をした。
「私は本間宗家の当主、本間泰高。突然の無礼をお詫び申す。」
「本間宗家…。」
幸村は、姫が背中にしがみつくのを感じながら相手の言った言葉を繰り返した。
そして嫌な予感がするのを隠しえず、それは顔色にも出たのだろう。
本間泰高は見上げる格好のまま
「いかにも。分家の河原田、羽茂に押されすでに名ばかりの宗家でございます。」
言葉は自嘲気味だが表情は苦しげで、そう言うとガバッと頭を畳につけた。
「名ばかりではあっても、ここ佐渡の守護。どうか、しばらくご辛抱下され!」